鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

う〜ん乗り切れない:読書録「報復」

・報復
著者:ドン・ウィンズロウ 訳:青木創、国弘貴美代
出版:角川文庫(Kindle版)

報復 (角川文庫)

報復 (角川文庫)


「ストリート・キッズ」シリーズ、「犬の力」のドン・ウィンズロウの新作。
と言っても、読んだことがあるのは「ストリート・キッズ」くらいでしょうかw。
リアル書店で2作同時発売されるのを見かけて(もう一作は「失踪」)、
「年末年始、たまにはこういうのでも」
と思ってDLしました。


911以降にアメリカ本土で実施された飛行機爆破テロ(もちろん「フィクション」)で家族を失った元・デルタフォース隊員が、傭兵部隊の力を借りて「報復」する…というストーリー。
現代的といえば現代的な背景をベースに、「ナバロンの要塞」や「鷲は舞い降りた」的な本格冒険小説を思わせる骨太の展開が繰り広げられます。
直接的な情感や長々とした描写を排しつつ、短い単語や専門用語、言葉の畳み掛けの中からドライブ感とハードボイルド的情感を醸し出してくるってのは作者のスタイルでしょうか?
読んでて、「力」のある作者なのは良くわかります。


が、個人的には最後まで乗り切れませんでした。
このテーマを扱うに当たって、「敵」となるテロリストを、「思想的狂信者」「世界情勢の被害者」といった人物とせず、「テロ」を「ビジネス」として扱う人物にしたあたりは、物語を「復讐譚」とするために必要な設定だったんでしょうが(またそういう側面が今のテロリズムに出てきているという認識もあるのでしょう)、結局それが作品を薄っぺらなものにしてしまっているように感じます。
主人公の心情、そこから「行動」に至るまでの流れ、周りの人物の描写等々、よく書き込まれているなと思いましたし、胸が痛くなるようなシーンも多々あるんですが、だからこそ「敵」のサイドの「ストーリー」にも「厚み」が欲しかった。登場人物たちが持つ「背景」や「過去」「心情」のせめぎ合いの中から生まれる「やり切れなさ」…「テロリズム」を描くにはこの視点が必要なんじゃないかな、と。
「アドルフに告ぐ」の手塚治虫はヤッパすごかったなぁ、という話w。
(作者も多分分かってて、様々な背景と過去を持つ傭兵たちの関係性や物語の中にはそういう要素が持ち込まれています)


まあ確かにそんな構成にしたら、ラストは「ハッピーエンド」じゃ済まないし、エンタメ小説として「どう?」ってのも分かります。
でもかつての名作冒険小説にはそういうところありましたよね。
本作が骨太な展開でそれらを目指していると思えるだけに、「惜しいな」と。
今の時代に「冒険小説」を成立させることの難しさを感じさせる話ってことかもしれませんな。