・「文系学部廃止」の衝撃
著者:吉見俊也
出版:集英社e新書(Kindle版)
- 作者: 吉見俊哉
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2016/02/17
- メディア: 新書
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少し前に話題になった「文系学部廃止」議論。
文系出身のサラリーマンとしてはw、気になるところでした。
まあ、傾向としては文科省に対して批判的な風潮が強かったと思うんですが、そのことには安堵しつつ、「じゃあ、今のままでいいのか?」って点については強い疑問も残っています。
で、少し前から気にはなってた本書を購読。
ある意味「期待外れ」。
本書ではあの「議論」が、実は的外れな内容・タイミングであったことが冒頭でバッサリと解説されます。
早い話、別にあのタイミングで新しく提示された「通知」ではないし、それが「話題」となったのは、おそらくは政権との距離感を測りつつのマスコミのアクションによるもの。従って本質的なところにはリーチしていない議論となっていることが指摘されています。
ここら辺の背景は知らなかったことも多く、「なるほど〜」って感じでしたが、ここら辺は「さわり」。
本書がメインで論じるのは、その根底にある「理系は儲かるが、文系は儲からない」という思想になります。
そこに対して「文系は儲かるんだ」というスタンスに立って、「文系軽視」の歴史や、大学組織の問題点、改革主体の難しさ、変貌する社会を見据えた今後の「大学」の方向性が語られています。
「大学改革の歴史」や「大学組織の実態(事務量の増大や教授会の封建的実態等々)」「教養、リベラルアーツ、一般教育の違い」なんかは、知らないことも多くて、(暗澹たる気持ちになる部分も少なくないけどw)刺激されました。
学生の数はともかく、教員の数や予算ではすでに日本は「理系偏重」なんですな。
そういう意味じゃ、日本の今までの「理系偏重」が決して効果的とは言えなくなってるのは自明じゃないですかね?
「なぜ今の日本に『スティーブ・ジョブズ』は登場しないのか?」
って使い古された「問い」でも良いし、
「日本の電機産業/製造業の将来はどういう方向に向かうべきか?」
ってのも、ここら辺に絡んでくる「問い」でしょう。
昨今の大企業の不祥事のアレコレを想起しても良いかも。
そこには「文系」的知性の欠如や、連携の不足、その根底にある「遊戯性」の軽視があると思うんですがね。
「部分最適」ではなく、「全体最適」を考える思考力と言っても良いかなぁ。ここは広くは「哲学」、(あんまり少な言葉じゃないけど)「人間力」が問われるところであって、こういう視野と「理系的技術・思考」の連関こそが最も需要なのだ、ってのは自明だと思うんですがね。
ただ「どうすればいいのか?」、これは難しい。
作者は「武蔵流二刀流(理系・文系科目の必須取得)」や、「人生3回大学」を挙げていますが、その基本的なスタンスには同意しながらも、結構難しいなぁとも思います、
「人生で三回、大学に入る」なんて、「働き方の変革」にも繋がる話ですが、当然それは「労働法制の改定」「労働流動性を高める社会制度や思想の変換」が必要になるんですが、さてそこに踏み込めるのか?
安倍政権は「労働生産性向上」の観点からココにてをつけたいようですが、なかなか上手くいってませんし、心理的な抵抗感は僕にもあります。
とは言え、「今のままじゃ」ってのは僕も強く思います。
そういうことを考える上でも、本書はイロイロな視点を提示してくれますね。
一読に値する本だったと思いますよ。