鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「マリアビートル」

・マリアビートル
著者:伊坂幸太郎
出版:角川文庫(Kindle版)



という訳で、「グラスホッパー」の続編。
・・・って訳でもないかな?
登場人物は重なるけど、どちらかと言うと彼らは「サブ」の位置づけだから。
ただ殺し屋達が右往左往して、思わぬ結果に・・・って狂想曲ぶりは共通している。「続編」じゃないけど、それに近い作品なのは間違いない。



ただ前作と趣きが違っているのは、殺し屋達の中に異質な「悪」が挟み込まれるからだろう。
前作でも本作でも、殺し屋達に恐れられる「大物」は登場しているが、彼らも所詮は殺し屋達の延長線上の存在。本作ではソレとは異なる、もう一歩純粋な「悪」に踏み込んだ存在が描かれている。
この存在故に、前作よりも本作の方が歪んだ印象が強くなっているんじゃないかな。「狂想曲」ではあるが、前作にあったような「疾走感」は本作の場合、少し減じているような気がする。
(時間的には二時間半のドラマなんだから、前作以上に濃密なんだけどね。だからここら辺は僕の個人的な感覚・・・って可能性もある)



もっとも最近の伊坂幸太郎氏の興味の比重は、この「純粋な悪」の方にあるようだけどね。だからこそ、こんな形で続編が描かれることになったのかもしれない。
ラストにはある種の「スッキリ感」はあるんだけど(考えてみたら、それも社会的正義の観点からはどんなもんかってのもあるけど)、そこに至ろまでは何とも苛立たしい展開もある。この手のシチュエーションが好きな向きもあるとは思うけど、僕は苦手なんだよねぇ。ソレ故の「スッキリ感」ってのもあるとは思うけど、振り返ってもあんまり気持ち良くは・・・。



相変わらずの達者な書きっぷり、構成、キャラ立ちetc、etc,、作品の水準が高いのは間違いない。従って後は「好みの問題」ですな。
個人的には「グラスホッパーほどではないけど、捨てられはしない。でも・・・」
といったとこかな。
歯切れ悪いけど、そういう作品でもありますw。