鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「カルニヴィア1 禁忌」

・カルニヴィア1 禁忌
著者:ジョナサン・ホルト 訳:奥村章子
出版:早川書房(Kindle版)



ハヤカワミステリ創刊60周年記念作品。
・・・となれば、それなりに期待します。
期待違わぬ出来であったのは嬉しい。
満足感が高く、続刊が待望される作品だったよ。



ヴェネチアを舞台にしたミステリで「禁忌」なんて題名だと、おどろおどろしい作品を想像しちゃってたけど(「ミレミアム」みたいなね)、予想外に現代的な作品であった。
現代的でありながら、事件そのものは「悲惨」極まりない。
「ミレミアム」をはじめ、悲惨な事件を題材とした「本格」以外のミステリの場合、社会通念から考えて突出して異常な人格者を取り扱うケースが多いと思うんだけど、本書は違う。
「悲惨」ではありながらも、それは「個人」によってもたらされたものではない。
国家・組織・宗教・民族等の、「組織」がもたらした「悲劇」。
その組織に属する「個人」が組織の論理・思想の中で歯車を軋め、その結果もたらされる、目を覆いたくなるような「悲劇」
本作のテーマはここにある。
いやはや、ホント、「重い」んだよね。



それに重ねて、本作では「女性蔑視」がもう一つのテーマになっている。
「ミレニアム」もそうだったけど、こっちの方がリアリティをもって迫ってくるかな。
ヒロインの一人は、優秀で魅力的な上司と不倫関係に陥る。
その関係が上司の妻に暴露されたとき、彼はヒロインと仕事を続けないということを妻に約束する。
当然?
僕はそう思ったんだけど、ヒロインから見ると、
「上司が男女関係を理由として、自分が働きがいを感じる仕事ができなくなる」
という視点から「セクハラ」を訴えるんだよね。
これには、
「うーん・・・」
でも確かに僕の判断の中には何らかの男女差別が働いていた可能性はある。
ちょっと考えさせられました。



不思議なSNSの存在や、暗躍する諜報機関、謎の勢力・・・
舞台の仕立ては実に魅力的であり、登場人物たちも中々いい。
是非とも続編を・・・という作品でありました。