・スターバックス再生物語 つながりを育む経営
著者:ハワード・シュルツ、ジョアンヌ・ゴードン 訳:月沢李歌子
出版:徳間書店
「守成は創業より難し」
だっけ?
まあ本書の場合、創業者自身が改革に取り組むので「守成」と言うのとは若干違うんだけど、課題はそのものだろう。
むしろ創業者が取り組むことによって、ハードルは更に高くなるかもしれない。
同じような立場に立った人物としてスティーブ・ジョブズが挙げられてるけど、アップルの場合、業界そのものが変動が大きく、その分「チャンス」も多い訳だから、まだマシだったんじゃないかね。
そういう意味では、「ハワード・シュルツ」という人物は、実に困難なことを成し遂げたと言えるのかもしれない。(今のところは・・・ではあるが)
「創業」ってのは物語としても面白い。
何かのチャンスをきっかけに、困難を乗り越えながら、「運」もつかんで、大きな成功を収める。
大抵は「既得権益」を代表する「敵」がいて、絶望的と思われた「敵」との戦いに大逆転を収め、新しい「価値観」を打ち立てる。
「スターバックス」自身にもそういう「創業」の物語があったろう。
こういう話は「みんな大好き」だ。
これに対して「守成」の物語ってのは、実に「地味」。
往々にしてそこにある「課題」は複合的で、その向うには「組織」そのものの問題が食い込んでおり。
「危機」をもたらす外部の「敵」もいるのだが、真の意味での「敵」は「自分自身」。
従って「一発大逆転」的な戦術はあまりなく、地道な体質改善的取組みを積み重ねて行くことによって、ようやく「改革」の兆しが見えてくる。
「地味」な上に「時間」もかかるこういう話は退屈でもある。
みんな、信長や秀吉の話は好きだけど、家康は嫌いだもんね。
これが秀忠なんかになったら、尚更。(あ、今の大河はその奥さんか)
だけど「創業」の話ってのは、結構「運頼み」ってところもあって、その成功の要因には「賭け」の部分も少なくない。
そういう意味では第三者が「参考」にするには、やや難アリでもあったりする。
これに対して「守成」への取組みというのは、「組織課題への取組み」の側面が強く、成功であれ、失敗であれ、組織と関係する人間にとっては何らかの参考にはなるんだよね。
「ローマ人の物語」がビジネスマンに読まれたってのも、言ってみればそういう話。
本書にも、そういう視点から役に立つ話は沢山含まれていると思う。
本書の大きな流れはこんな風になっている。
「一線を離れた創業者が、自分が作った会社の現状に対して危惧を抱き、その危惧どおり危機が訪れたとき、自ら乗り出して、創業の理念を思い起こしながら、新たな組織改革に取り組んでいく」
ここで訪れる「危機」はリーマンショックによる景気の大幅な後退。
ただ創業者自身はその前から組織の劣化に危惧を抱いてた・・・という構図になっている。
これはこんな風にも言い換えれるかな?
「組織が拡大化する中で、組織内部に非効率・不合理な部分が肥大化してしまい、ビジネスが高コスト体質になってしまった。景気後退による売上高減少に対し、組織の効率化が急務となったが、組織そのものの『存在意義』を見失わないように、『創業の理念』を再認識し、その理念に沿った組織改革を行った」
本書を概念化するならコッチの方がいいかも。
その取組みを創業者が行ったと言うのが本書を劇的にしてるんだけど、本質はそこにはない。
「組織の合理化は必要だが、組織そのものの『存在意義』を見失ってはいけない」
これが肝要なのではないか、と。
いつまでも創業者がいるもんでもないしねw。
実に面白く読め、読み終えるとスタバのコーヒーが呑みたくなること間違いナシの一冊。
・・・なんだけど、個人的懸念を一つ。
「インスタントコーヒー」
これはどうかな?
作者の気概は理解するし、新たなマーケットに踏み出す企業家精神の重要性も理解する。
それでも、果たしてこれが「第三の場」というスタバの理念に合致しうるものなのかどうか?
作者はネットとのコラボによる「場」の広がりを考えてるようだけど、僕自身は懐疑的である。
どんなに味が良くても、インスタントコーヒーと言う存在によって、「スターバックス」というブランドそのものがコモディティ化してしまうのではないか、と。
単なる危惧かもしれないけどね。
でもやっぱりインスタントでスタバのコーヒーを飲む気には僕にはなれないなぁ・・・。