・先送りできない日本 ”第二の焼け跡”からの再出発
著者:池上彰
出版:角川oneテーマ21
東日本震災から二ヶ月が経過し、そろそろ震災後の日本のあり方について提言する本が書店の店頭に並び始めている。
正直、福島原発の状況が見えない中で、「まだ少し早い」(あるいは東電の存続の仕方にコメントしない提言の必要性を感じる)と言う思いもあるんだけど、「そろそろ(震災直後の)思考停止状態からは脱しなきゃ」とも考え、手軽そうな本書を手に取った。
まあ名解説者の提言ですからw。
(大前研一の「日本復興計画」もあったけど、あれはどちらかというと、「最中」からの提言という色彩が強かったからね)
本書自体は震災後に発行されており、震災を踏まえた内容にもなってるんだけど、アウトラインそのものは震災前に考えられたもののように思う。
作者のスタンスは、
「震災前から日本は変革の必要性に迫られていたが、震災によって『余力』をそぎ落とされ、その変革は『待ったない』の状況になっている」
というトコロのようなので、アウトラインの大幅な変更は必要なかったってことだろう。
もっとも震災のことを考えると、TPPと農業の関係はもう少し丁寧なアプローチが必要だったと思うし(東北における農業の比重の高さや、福島原発の放射能影響の農業への波及あたり)、エネルギー政策・電力事業のあり方なんかも、現時点ならもっとコメントされてしかるべきだろう。
まあ執筆してた頃は、福島原発がここまで迷走し、東電のポジションが急落するようなことは想定できなかったんだろうけどね。
作者のアウトラインは、
「日本の財政状況は逼迫しており、急速に産業・社会構造を変革する必要がある。その方向性はグローバル化する世界経済における日本のポジションアップであり、そのためにはTPPも積極的に進めて行く必要がある。農業も含め、日本の産業にはそれに耐えうるだけのポテンシャルがあり、日本人はそのことを自覚すべきである」
ってな感じ。
まあ自由主義的な考え方とも言えるけど、合理的に考えると、概ねはこういう感じになるんじゃないかな。
細部において反論がない訳じゃないけど、大筋は「そうだよなぁ」と受け止めれる。
こういう認識を踏まえ、自分自身の足場を見直しながら、(反対するにせよ、賛同するにせよ)自分の考えを組み上げる。
そういうのに実に相応しい本だと思う。
さすが「池上彰」w。
震災前から日本が追い込まれていた袋小路。
そこに至る原因として、政治報道を避け、政局報道ばかり追いかける「メディアの責任」にもキッチリ言及するあたりも、さすがです。
作者は巻末に、政治家に投げかけるべき「いい質問」を列挙している。
<・いまのまま、国の借金がふえていくと、将来何が起こりますか?
・いますぐ年金制度を改正しても、結果が出るのは数十年先。時間が足りないのではありませんか?
・スタート時点での平等を確保するためには、何が必要ですか?
・少子化を防ぐには、高齢者より乳幼児や若い夫婦への支援が必要なのではありませんか?
・原子力発電所の事故が起きても、原子力発電所は必要ですか?
・原子力発電所がどうしてお必要なら、今後の安全のために、私たちはどんなコストを負担するのですか?
・原子力発電所がこれ以上増設できないのなら、私たちにはどんな道が残されていますか?それを打開する道はありませんか?>(P.181-182)
まあ「誘導尋問」的なところもあるけどw、これは我々が我々自身に問いかけ続けなければならない「質問」でもあるだろう。
頭の整理するのに、いい本でした。