鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「逆パノプティコン社会の到来」

・ジョン・キムのハーバード講義 ウィキリークスからフェイスブック革命まで 逆パンプティコン社会の到来
著者:ジョン・キム
出版:ディスカヴァー携書



少し前から朝日新聞が駐日米大使の公電のリーク記事を掲載している。
昨年11月に欧米では公開されていたウィキリークスの暴露情報だ。
最近のウィキリークスは大手メディアと連携して情報を公開しているが、どうやら日本では朝日新聞がパートナーに選ばれたようだ。
今時点、日本でのニュースバリューは圧倒的に東日本震災・福島原発関連の情報にあるのに加え、フリーを中心としたネットメディアの大手メディアに対する微妙な距離感(もともとは記者クラブ問題に発しているのだが)、情報そのものがリーク中心で全体像の解説までに至ってないこと等があってか、大きなインパクトにはなっていないように思う。
しかし公開された情報は消え去ることはない。
いずれはこれらの情報に対する、あるいは情報の中での日米政府・政治家・官僚達に対する「評価」というのが語られることとなるだろう。
情報透明化社会の一つの波が遂に日本にも到達した、と言えるのかもしれない。



本書はそうしたウィキリークスのこれまでの動きを追いつつ、その性格にまで踏み込んで解説するのに加え、ソーシャルメディアを活用した市民革命と言われるチュニジア・エジプトの革命の経緯を解説した作品。
分かりやすくまとまっているし、ウィキリークスやソーシャルメディアに対して過度な評価を与えていないあたり、ここら辺の「流れ」を自分の中で整理し直すには、「使える」一冊だと思う。
逆に言えば、情報そのものに「新味」はないんだけど、この手の話は主観が絡むほど全体像が見えてこなくなるからね。
勿論、作者はこういう流れやこれらのメディア、ツールに対して肯定的ではあるんだけど、コレくらいの距離感がある方がいいんじゃないかと個人的には思っている。



ただこの題名はどうかね?
「パノプティコン」ってのはフーコーの「監獄の誕生」に出てくる「全展望監視システム」のこと。
このシステムは、円形の監獄の真ん中に看守塔を設置することで極めて効率的な監視体制を構築する。これは「政府」が看守塔に入り、「市民」を監視するシステムに模すことも出来る。
作者は現在の「情報化社会」をコレとは逆に、「市民が看守塔に入り、政府を監視する」という構図と見立て、「逆パノプティコン社会」と評している訳だ。



この構図自体に異議を唱えるつもりはない。
ないんだけど、仰々しく掲げた割には、本書の内容はウィキリークスとジャスミン・エジプト革命の経緯の紹介が主になってて、それらの社会的なあるいは哲学的な考察って面はあんまりないんだよなぁ。
前述した通り、それはそれで整理されていていいんだけど、題名だけ見ると、もうちょっと哲学的な方向にも考察が深められてるんじゃないかと期待しちゃうところがあって・・・。
結果、ちょっと肩透かしを食ったような気分にもなってしまった。
ま、勝手なこっちの思い込みって言われりゃ、それまでなんだけどさw。



タイムリーな本なのは確かだし、冒頭にもコメントした通り、日本にもその直接の波が到来しているタイミングにある。
福島原発を巡る政府・東電の情報の出し方に批判が高まっていることも、この傾向を後押しする可能性を高めてるんじゃないかね。
「他人事」ではなく、身近な社会の変革の方向性を考える上で役に立つ作品だとは思うよ。