鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「予防接種は『効く』のか?」

・予防接種は「効く」のか? ワクチン嫌いを考える
著者:岩田健太郎
出版:光文社新書

子供ができると、途端に「予防接種」は身近で、面倒な「仕事」になる。
我が家の場合、全ては妻が仕切ってくれたのだが、端で聞いてても、あの予防接種のスケジューリングには恐れおののいちゃう。
それが風邪なんかでズレた時のパニックと言ったら・・・!


そんな時、ふと思っちゃうんだよね。
「『予防接種』って言っても、副作用があるって言うし・・・。本当にやらなきゃいけないのかなぁ」
実は、その「回答」が本書にあるわけではない。
作者はそんな傲慢な人ではない。
しかしそのことを自分で考えるための「基本的な情報」「考え方のヒント」はココにあると思う。
今現時点において「ワクチン」について考える上において、本書ほどクレバーな作品はないだろう。(それが将来においても担保されるわけではないことは、作者自身が指摘している通り)


まあ一言で言えば、
「利己的な振る舞いは、利他的でもある」
ってこと。
「副作用」が「効果」を上回らない限りにおいては(そういう時期が来ることがあることも指摘されている)、「集団予防効果はある」。
「個人」に予防接種することで、その「個人」が属する「集団」にも免疫ができる・・・ってことかな?
本書のポイントはここ。
そしてそのことを歴史的に解説しつつ、なぜ「ワクチン嫌い」が生まれたか等について考察しているわけだ。
その語り口は実に論理的で分りやすく、それでいて「決め付け」は決して行わない。(「決め付けないこと」が本書のテーマの一つですらある)
いやはや、何ともクレバーな作品だ。


<岩田先生は人間的にはきわめて穏やかな人だが、知性の切れ味には寒気を覚えることがある>


って、帯の内田樹氏の評にも頷けるよ。


本書のテーマは、一方で現在の日本における大きな課題の一つ「医療崩壊」に通じるところがある。
・・・と言うか、マスメディア・官僚・一般市民における課題は全く同じなんだよね。
医療現場で進行する「医療崩壊」の雛形は、既に「ワクチン行政」に用意されていたって見方をしてもいいくらい。
「なんだかなー」
って気分になっちゃう。


「ワクチン行政」については、(何でも「アメリカ」って訳じゃないけど)アメリカの組織が一つの参考にはなる。
ただ医療全般を考えたとき、その組織自体より、その組織を支える社会の有り様について考える必要があるだろう。
そこにおいても、我々は「白髪の小児」(大人なのに子供っぽい議論しかできない人。上手いこと言うねw)から「成熟した大人」への脱皮を求められているわけだ。
(っつうか、色んな局面でそういうタイミングに来てるのかもね。政治、マスメディア、官僚・・・そして我々自身)


一読に値する作品だと思います。