鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「沈みゆく帝国」

・沈みゆく帝国 スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか
著者:ケイン岩谷ゆかり 訳:井口耕二
出版:日経BP社(Kindle版)



ティム・クックが「ナンセンス」と名指しで批判した作品。
…って、そのこと自体が「宣伝」になっちゃってますw。
でも内容としては良く調べられていて、基本的事実は結構フォローされてるんじゃないかなぁ…という印象ですよ(他の報道なんかと重ね合わせると)。
まあクックが批判したのは、「会社の将来」というところでしょうね。
作者は確かにAppleの将来性についてはかなり悲観的です。
こう書かれたら(作品の骨子がシッカリしてるだけに)クックとしては批判せざるを得ないでしょう。
あくまでも「推測」でしかないわけですからね。



作品の構成としては頭は「ジョブズの死」前後の状況が描かれます。
ここら辺はなんだかジョブズの自伝を補完するような内容でした。ジョブズやAppleに対する批判的なトーンはあまりありません。
ここいらを読むと、「ああ作者は結構ジョブズのことが好きなんだな」と感じます。



この「ジョブズの死」以降は、ビジョナリーを失った「帝国」が変調を来たしている様子が、具体的な事例を引き合いに出しながら丁寧に描かれます。
主な視点は以下の三つ。



①中国を中心としたサプライヤーにおける劣悪な労働環境
②サムソン等のライバルとの特許訴訟戦争
③イノベーションの欠如



それぞれのことは漠然とは知っていますが、ここまで具体的な内容は知りませんでした。実によく取材されていると思います。



まあ正直言って、「①」や「②」はAppleだけの問題とも言い切れないと思いますけどね。そういう意味じゃ、これを持って「帝国の衰退」と断じるのはチョット可哀想かと。
作者自身、「ジョブズがいても、この自体を回避出来たかどうかは分からない」と言ってますし。
特許戦争なんかは「ジョブズの遺言」みたいなところもあります。
もっともだからこそ退きにくいってのはあるかもしれませんが。(だからって相手が手をこまねいてくれるとも限らないけど)



問題は「③」ですね。
Apple商品を使っている僕としてもここが一番気になります。
そしてSiri・純正マップの失敗や、新カテゴリー商品の欠如を考えると、作者の指摘が一定の「重み」を持つのは確かだと思います。(個人的にはSiriは結構気に入っていますがw)



もっともITをめぐる状況がここに来て大きく変わって来てるのも事実でしょう。何と言ってもクラウドの活用がものすごい勢いで進んでいます。
僕はiTunesMatchを楽しませてもらっていますが、おそらくはストリーミングサービスが広まるであろう今後を考えると、子供達はこんな風にコンテンツを所有する傾向はあまりないんじゃないかと。
そういう時代において「デバイス」の持つ意味というのは…ってことを考えると、このタイミングでの新商品の打ち出しっていうのはなかなかハードルの高いことなのかもしれません。iOS8なんかはそう言ったことも視野に入れた対応がされているように感じています。
(そういう意味じゃ9月に予定されているiPhone6には、デバイスとしての「驚き」はあまりないかもなぁと思います。
老眼対策としては興味あるんですがw)



とは言え、これは「凡人」の未来予想。
そう言う「現在」の延長線上の未来じゃない「世界」を打ち出して来たのがAppleです。
「なかなか厳しそうだよなぁ」
と思いつつも、新しい「提案」がされることを期待しているのも事実です。
その奮起を本書が促してくれればいいな…などとも思ってるんですがね、実は。(案外作者もそうかもよ)



そしてAppleの衰退が明確になって来たのなら、ここら辺でソニーの復活を…と期待したりもしてます。
こっちの方がハードルは高そうですが。