鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「復興の精神」「私たちはどう生きるのか」

・復興の精神
出版:新潮新書



・マイケル・サンデル大震災特別講義 私たちはどう生きるのか
著者:マイケル・サンデル 編:NHK「マイケル・サンデル究極の選択」制作チーム
出版:NHK出版



東日本大震災が物理的にだけではなく、精神的・哲学的にも大きなインパクトを人々に与えたのは間違いない。
この2冊は経済的な側面からの「復興」ではなく、思想・哲学・文化といった視点からの「復興」について論じた内容になっている。



「復興の精神」の作者は9名。



養老孟司、茂木健一郎、山内昌之、南直哉、大井玄、橋本治、瀬戸内寂聴、曽野綾子、阿川弘之



それぞれの立場からそれぞれなりの話を語っているのだが、共通するのは、
「復興は必ずされる」
そして
「今までの生活・文化、そのままという訳にはいかないだろう」。



まあ、こういう話になるわな。
むしろそうした論を語りながら、変わらないところは変わらないってところが苦笑でもあった。
曾野綾子や阿川弘之の保守っぷりとかねぇ。



「私たちはどう生きるのか」は、評判のサンデル氏が東日本大震災を受けて特別講義を行ったもの。
「公共」をテーマとするサンデル氏らしく、東の本大震災における日本人の冷静な振る舞いと、日本に対する各国の支援体制から、グローバリスム社会における「公共」「正義」のあり方についてディスカスしている。
まあサンデル氏のスタイルというのは、「結論」を導くのじゃなくて、「問い」を投げかけるものだからね。
そういう意味では興味深い「問い」が導きだされているとも言えるし、(「復興の精神」同様)「結局、我田引水やん」と読むことも出来る。
個人的には面白かったけどね。



一番興味深かったのは「結び」の部分かな?



<私から日本にお願いしたいことがあります。今後、原子力をめぐって議論が起こると思いますが、その時には、率直に意見を交わし、お互いに敬意を払った議論を重ねていただきたい。恐れることなく、避けることなく向き合って欲しいのです。>(P.62)
<今回のことは民主主義に対する究極のテストだと思います。人々に撮って最も重要な問題、最も熾烈に争われるような問題が、公然と敬意をもって議論できるかどうか。
(中略)日本での率直で、思慮に富んだ議論のあり方が、世界のお手本となるでしょう。そして、日本にとっても、より強靭な民主主義を築く機会となるはずです。>(P.63)



この2冊が出版されたのは最近だが、内容は震災後1ヶ月程度の時期に語られ議論されている。
その後、福島原発の深刻化、政治の混迷が続いている訳だけど、サンデル氏の話はそのことを見透かした上で語っているようですらある。
これはちょっと驚かされたなぁ。



震災を踏まえての日本人(あるいはそれを世界に広げてもいいのかもしれないけど)のマインドセットの方向性はこの2作品で語られている通りだと思う。
今後語られるべきは、
「では具体的にそれをどういう風に進めて行くのか?」


サンデル氏が指摘した通り、「原発」に発した「エネルギー政策」「電力行政」の見直しに関する議論からその問いに対する「答え」を議論することになるのかもしれない。



「公然と敬意をもって議論できるか」
「率直で、思慮に富んだ議論」



・・・なかなか課せられたハードルは高そうではありますが。