鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

「月下の棋士」は遠くなった:読書録「50代、それでも戦い続ける」

・50代、それでも戦い続ける 将棋指しの衰勢と孤独と熱情と
著者:村瀬信也、木村一基
出版:ディスカヴァー携書(Kindle版)

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中・高の友人がFacebookで紹介してた本。
面白そうだったんで読み始めたら、一気でした。
甲谷くん、ありがとう。


(ChatGPT)
概要
朝日新聞の将棋記者・村瀬信也が、50代に入った木村一基九段を長期取材し、衰えを自覚しつつも盤上に向かい続ける理由を掘り下げたノンフィクション。若手が主役となった将棋界とAI時代という環境のなかで、頭脳・体力の変化への自己認識、藤井聡太・永瀬拓矢らとの対峙、弟子・高野智史へのまなざしまでを赤裸々に描く。
2019年の46歳での初タイトル(王位)獲得から、翌2020年の王位戦で藤井聡太に0勝4敗で失冠するまでの転機を軸に、「下りゆく自分」とどう向き合い、なお挑み続けるのかを語らせる構成。
章立ては「50代、どう戦うか/50代の頭脳と体力/自分らしい挑戦/新時代の輝き/棋士としての、これから」。巻末に鼎談(囲碁将棋TV―朝日新聞社・2024年3月29日配信)と2020年2月22日付の朝日新聞インタビューを特別収録。

 

功成り遂げた人の自伝のような振り返りでもなく、トップ棋士の自分の棋風の説明でもなく、時代が変わっていく中で、翻弄されながら迷い、それでも,前に行こうとしている50代中年の棋士の現時点の姿を語った作品って感じです。
木村さんだけじゃなくて、聞き手の記者自身にも迷いが見えるようなところがあって、なかなか興味深いです。


将棋に関しては本当にAIが入ってきて世界が変わってしまってますからね。
羽生世代もパソコンで大きく変わったって言われてたけど、あれはまあ、棋譜の整理とかそういうデータのところを整理して確認しやすくなったっていうのであって、AIはさらにその一歩先を行ってますからね。
棋譜を整理するだけじゃなくて、新しい手とか戦略とかっていうのを生み出していくのが今のAIだから。


そういうのを駆使する、いわゆる藤井世代と相対しながら、なんとか追いついて食らいつこうとしている木村さんの姿と、そこにある迷いみたいなものが、結構赤裸々に飾られていると思っています。


昔、「月下の棋士」っていう漫画があって、僕は大好きだったんですけど、あれって羽生善治さんがグーッと伸びてくるその時代に描かれてた漫画なんですよね。
羽生世代っていうのは、その前の世代がある意味「人間力」とか「直感」とか、そういうことを重視しながら将棋をやってたのに対して、棋譜の分析や勉強を積み重ねることによって、合理性で世代交代を果たしていった世代だと思っています。
ただ、「月下の棋士」自体は、そういう若手の台頭みたいなものを描きながらも、割と「人間力」とか「直感」とか「情念」とか、そういうものを中心に据えてた漫画で、物語のドライブそのものが、一世代前のアナログなところを引きずっていたところがありました。

まあ合理性を追求した羽生世代でも、やっぱり人間力とかを重視するところはあって、羽生さんなんかも時々そういうことを言ってたと思いますけど、AI世代になってその「人間力」のあり方っていうのが全然変わってきています。


今の最前手はAIが繰り出す。
そこをどこまで突き詰めて研究し、記憶して、それを人間対人間の戦いの場で、どうやって引き出し、展開していくか
これが今のトッププロの将棋の世界だと思います。
まあ、なかなかしんどいですよね。
「神の一手」っていうのは昔からよく言われるけど、「神の一手」がAIが導き出して実際にそこにあることが分かっているっていう状況とも言えるのかな。
そういう意味じゃ、異次元の世界になっている。


それでもやるのは人間。
だからこそ、羽生世代も新しい世代に食らいついているし、木村さんたちもその中でもがいているって、そんな世界です。
これはこれでまた面白い人間模様と言えるでしょう。
今の将棋界の面白さって、そういうところになってるんじゃないかなっていうのが僕の個人的な感想です。
僕自身はあんまり将棋のことは、ゲームとしての将棋のことはよくわかんないんだけどw。


まあ、ここからどういう風になっていくのかな。
漫画では「龍と苺」なんかは、AIに正面から戦うって展開になっていて、これはこれでなかなか面白いんですけど、まあ現実世界がそっちの方向に行くっていうのはないでしょう。
もうなかなかそこは難しい。


とすると、そのAIが導く「神の一手」、これをどうやって人間対人間の戦いの中に繰り出していくのかっていうのが、これからの将棋の面白さということになるんでしょうか。
わからないなぁ。
まぁ、人間がやる以上、「人間力」っていうのは重視されること自体は間違いないとは思うんですけどね。


でまあ、一足先に将棋の世界はこんな風になっちゃったんだけど、いよいよそれが一般の人間の社会にまで踏み込んでくるのかどうか。
行き着く先は「タイタン」の世界?
そんなことを考えながら、いろいろAIを試したりも個人的にはしてるんですけどね。
なんとも言えないんだけどなぁ。

 

 

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