鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

コレ、書評を読ませたいんだよね?:読書録「『話が面白い人』は何をどう読んでいるのか」

・「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか
著者:三宅香帆
出版:新潮新書

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ベストセラー「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」の三宅香帆さんの新作。
題名の印象はノウハウ本っぽいし、まあ確かにそういうパートもあるんですけど、読んでみると事例として出ている書評や批評の方がメインっていう感じだったですね。

 

(Amazon)
本の概要
「とっさに言葉が出てこない」「アイスブレイク的な雑談が苦手」「飲み会で昔の話ばかりする大人になりたくない」……そんな時、話題の本や漫画、最新の映画やドラマについて魅力的に語れる人は強い。社会や人生の「ネタバレ」が詰まったエンタメは、多くの人の興味も引く。ただ、作品を読み解き、その面白さを伝えるには、実は「コツ」がある。気鋭の文芸評論家が自ら実践する「『鑑賞』の技術」を徹底解説!

【目次】
まえがき

第一部 技術解説編
1 話が面白いという最強のスキルについて
2 味わった作品を上手く「料理」してネタにする
3 具体例でわかる! 物語鑑賞「五つの技術」
4 「鑑賞ノート」をつけてみよう
5 読解力があればコミュニケーション上手になれる

第二部 応用実践編
1 〈比較〉ほかの作品と比べる
欲望と格差が引き起こす人間ドラマ――『地面師たち』vs.『パラサイト』
「ここ」を肯定して生きる――「成瀬」シリーズvs.『桐島、部活やめるってよ』『あまちゃん』
「推し」時代の師弟関係――『メダリスト』vs.『ユーリ!!! on ICE』
強くなりたい少年たち――『ダイヤモンドの功罪』vs.『実力も運のうち 能力主義は正義か?』
なぜ中年男性はケアをしないのか問題――『LIGHTHOUSE』vs.『OVER THE SUN』
息子であり、父であり、夫ではない男たち――『君たちはどう生きるか』vs.『街とその不確かな壁』  ほか

2 〈抽象〉テーマを言葉にする
ケアの倫理の物語――『ダンジョン飯』『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』
父性の在り方を問う物語――『不適切にもほどがある!』『喫茶おじさん』
ネットがつれてきた感情――『エレクトリック』『##NAME##』『ハンチバック』
アンコントローラブルの文学――『ともぐい』『八月の御所グラウンド』
ローカル性の復活――『地図と拳』『しろがねの葉』『この世の喜びよ』『荒地の家族』
「親ガチャ」に外れた人生のその後――『水車小屋のネネ』

3 〈発見〉書かれていないものを見つける
消えたブラザーフッドの行方――『女のいない男たち』『ドライブ・マイ・カー』
令和の「こじらせ男子」が持っていないもの――『こっち向いてよ向井くん』
ポスト「逃げ恥」時代の家庭問題――『海のはじまり』『西園寺さんは家事をしない』『SPY×FAMILY』  ほか

4 〈流行〉時代の共通点として語る
「おいしいごはん」は幸せの象徴か――『おいしいごはんが食べられますように』『デクリネゾン』
令和の源平ブーム――『鎌倉殿の13人』『平家物語』『犬王』
今なぜSFがウケるのか――『三体』『プロジェクト・ヘイル・メアリー』
SNSでバズる短歌――『あなたのための短歌集』
「はて?」「なぜ?」が求められている――『虎に翼』
正しさをめぐる問いかけ――『〈公正(フェアネス)〉を乗りこなす』『訂正可能性の哲学』
芥川賞候補作は時代を反映する――『バリ山行』『サンショウウオの四十九日』  ほか

5 〈不易〉普遍的なテーマとして語る
物語は陰謀論に対抗しうるか――『方舟を燃やす』『女の国会』『一番の恋人』
「推し」ブームの変遷――『推し、燃ゆ』
「私小説」が流行る理由――『文藝』「ウィーウァームス」『アイドル2・0』
名作リバイバル・ブーム――『THE FIRST SLAM DUNK』
村上春樹の継承者を考える――『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ブランチライン』
『光る君へ』と源氏物語――『光る君へ』『あさきゆめみし』
「ノンフィクション本三宅賞」を決めてみる――『太陽の子』『ネット右翼になった父』『母という呪縛 娘という牢獄』
ウクライナ、灰色の空――『ペンギンの憂鬱』『ウクライナ日記』

あとがき

 


ノウハウの部分について言うと、本や漫画、ドラマや映画なんかをネタとして自分の中に取り入れておくっていうのがポイントで、その取り入れ方として「比較」「抽象」「発見」「流行」「不易」といった鑑賞の手法で取り入れるという内容になっています。
ここの「鑑賞の技術」というのがまあ「批評」になる訳です。
でもって、その事例として過去の作者の書評・批評をザーッと紹介する、と。
「ノウハウは釣りで、そっちがメインやったんちゃうん?」
と薄汚れたおとなは邪推しちゃいますw。
まあ看板に偽りありみたいな内容かもしれませんが、この書評・批評の部分がすごい面白かったので僕はかなり楽しく読ませてもらいました。


三宅さんの批評って基本的にネガティブなことは、ほとんど言わないって感じなんですよ。
批評というのは、ある意味、対象に対して批判的なスタンスで対峙するっていうことも重要だと思うんですけど、多分、三宅さんは意図的にそういうふうなスタンスは取ってないんだろうと思います。
基本的にはポジティブに対象を語ろうとしてるし、ものによっては「推し」のように熱量を持ってお勧めまくるっていうところもあります。
ここで取り上げてるんで言うと、成瀬シリーズの話とか、漫画の「メダリスト」とか、あるいは村上春樹なんかの紹介のあたりなんかには強くそういうのを感じますね。


で、やっぱりそういう方が面白いんですよ。
時代的なこともあるのかもしれないですけど、相手や対象のことをネガティブに批判的に言うことが頭がよく見えるような時流っていうのは今はないかなと個人的には思っています。
そういうことが必要な時っていうのはあるかもしれないけど、むしろなんか文句ばっかり言ってるウザい人に見えちゃいますから。
ここら辺は僕自身の自戒っていうのもありますけど。


まあ、三宅さん自身が話が面白い人かどうかっていうのはよくわかんないですけど、本としてはなかなか面白かったと思いますよ。
問題は読んじゃうと、色々読んだり見たりしなきゃいけないストックが増えちゃうっていうことでしょうか。
アマゾンのウィッシュリストやらネトフリのマイリストに随分と溜まってしまいました。
それはそれで幅が広かるから良いんだけど、問題は時間なんだよな〜。


#読書感想文
#話が面白い人は何をどう読んでいるのか
#三宅香帆