・本心
著者:平野啓一郎 ナレーター:井上悟
出版:文春文庫(audible版)
Audibleにアップされているのを聴いてみる気になったのは、もちろん映画化されたっていうのも大きいんだけど、最近AIに関していろいろ情報を集めたりしてるっていうのも影響しています。
何しろ生成AIの動きはものすごく激しいですからね。
作品としてはかなり興味深く読むことができましたし、面白かったです。
ただもともとの意図から考えるとちょっとそういう感じではなかったかなぁっていうのはありますかね。
サマリー
愛する人の本当の心を、あなたは知ってい
ますか?
『マチネの終わりに』 『ある男』に続く、 平野啓一郎 感動の最新長篇!
「常に冷静に全てを観察している賢い主人公の感情が、優しくそして大きく揺れるたび、 涙せずにはいられない。」 - 吉本ばなな
「心配だっただけでなく、 母は本当は、僕を恥じていたのではなかったか?」
ロスジェネ世代に生まれ、 シングルマザーとして生きてきた母が、 生涯隠し続けた事実とは急逝した母を、 AI/VR技術で再生させた青年が経験する魂の遍歴。
四半世紀後の日本を舞台に、 愛と幸福の真実を問いかける、分人主義の最先端。
ミステリー的な手法を使いながらも、 「死の自己決定」「貧困」 「社会の分断」 といった、現代人がこれから直面する課題を浮き彫りにし、愛と幸福の真実を問いかける平野文学の到達点。読書の醍醐味を味合わせてくれる本格小説!
【あらすじ】
舞台は、「自由死」 が合法化された近未来の日
本。最新技術を使い、 生前そっくりの母を再生させた息子は、「自由死」 を望んだ母の、 \<本心\>を探ろうとする。
母の友人だった女性、かつて交際関係のあった老作家…。 それらの人たちから語られる、 まったく
知らなかった母のもう一つの顔。
さらには、母が自分に隠していた衝撃の事実を知る。
(Audibleより)
あらすじを読むと、何かバーチャルフィギュア(VF)になった母親との交流の中から死んだ母親の過去を掘り起こしていくみたいなものを想像してしまいますし、個人的にもそういうのを期待していました。
でもなんかそんな感じじゃないんですよね。
そういう展開になるとしたら、バーチャルフィギュアになった母親はどんどんどんどん人間っぽくなっていくか、あるいは人間を超えた存在になっていくみたいな展開があるのがパターンだと思うんですけれども、本作品ではあくまでもバーチャルフィギアはバーチャルフィギュア
作り物として人間に迫ってくると言うような事はほとんどありません。
まぁここら辺が作者の理知的なところですよね。
そういう線を守りながらも、あるシーンでグッとくるところに持ってくるっていうのはたいしたもんなんですけど、そうは言っても、このバーチャルフィギュアやAIに対する距離感っていうのは相当現実的なところにとどまっていると言う感じがします。
それがリアルなところって言うのはわかるんですけど、今の生成AIの状況なんか考えるとこれから四半世紀だったときに果たしてそんな感じにとどまってるのかなあって言う気がするのも事実です。
まぁここら辺は僕がAIに関してポジティブなところがあるからっていうのもあると思いますけどw。
作者が中心に置いているテーマは、AIやバーチャルフィギアと言うところがメインじゃなくて、
「死の自己決定」「貧困」 「社会の分断」
ここらへんなんでしょうね。
そこを死んだ母やVFとではなくて、
一緒に働いていた友人、母親の同僚、新しい若い友人、苦情を助けたハーフの労働者、母がファンだった小説家
と言った「人間たち」との交流の中から深めて行く…って感じでしょうか。
特に母親の同僚だった女性と新しい若い友人との関係は、結構エモーショナルなところがあって、読みどころにもなっています。
「いやぁ、平野さん、流石に上手いなぁ」
なんですけど、
「コレだったらヴァーチャルフィギュアとか出してこなくても良かったんじゃね?」
とも思っちゃうんですよねw。
いや、それはそれで読みどころもあるんですけど。
終盤には格差・貧困に関する作者の主張みたいなことも強く出てきて、そこら辺を説教臭く感じるかどうかっていうのももしかしたらあるかもしれません。
僕個人はギリギリ許容の範疇かなぁとは思いましたけど、そこは人それぞれって言うところがあるでしょうかね。
ナレーターも抑制の効いた感じで、僕は好感を持って聞くことができました。
文章がすごい整理されているので、オーディオブックで聞くのに向いている作家さんだっていうのもあるかもしれません。
まぁ、このこと自体、良し悪しって見る人もいるかもしれませんが。
トータルとしては満足感がある読書体験でした。
ただまぁSFチックなものを期待して、バーチャルフィギュアとの関係性が揺らいで行くようなフィリップKディック的なものを期待すると、肩透かしを食っちゃうかな?
それを平野さんに求めるかどうかって話なんだけどw。
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