・プロジェクト・ヘイル・メアリー<上・下>
著者:アンディ・ウィアー 訳:小野田和子
出版:ハヤカワ文庫(Kindle版)
処女作(火星の人)を映画化した「オデッセイ」は無茶苦茶面白かったです。
あんまり面白かったんで、原作はスルーしたくらいw。
で、第2作の「アルテミス」も気にはなったんですが、こちらの方の評判は「賛否両論」。
「ん〜、一発屋だったかなぁ」(なんて失礼な!)
…と、なんとなくスルー。
で、三作目の本作。
最初は「スルーかな…」だったんです。
でも結構な評判が聞こえてきて、
「じゃあ、とりあえず読んでみるかな」
と、手を出したら、もう一気!
上下巻を二日で読み上げてしまいました。
いやぁ、面白かった。
作品的には実は「ネタバレ厳禁」系なんですよね。
「オデッセイ」+「インターステラー」+「ET」
…でもかなり踏み込んじゃってます。
それでも「and more」ですからw。
科学的知識とDIY精神満載なのは「オデッセイ」と同様。
もっとも「科学的知識」の方は、読んでて「チンプンカンプン」なとこも少なくなかったですけどね(僕個人の資質として、ですがw)
それでも「センス・オブ・ワンダー」と「どんでん返し」と「ロマン」に溢れるストーリー展開にグイグイと引っ張られます。
いやはや、なんとも。
主人公の奮闘を楽しむ物語ではあるんですが、個人的な「裏」主人公は、主人公の上司であり、彼を宇宙に送り出す(?)「エヴァ・ストラット」。
彼女の「男前っぷり」にはホントやられました。
<「気になることがあるんですが」とぼくはストラットにいった。
「〈ヘイル・メアリー〉が発進したら、あなたはどうするんです?」
「わたし?」と彼女はいった。「どうでもいいわ。〈ヘイル・メアリー〉が発進したら、わたしの権威は消える。そうなったらたぶん、憤懣やるかたないそこらじゅうの政府から権力の乱用のかどで告訴されるでしょうね。残る人生、監獄ですごすことになるかも」(中略)
「心配じゃないんですか?」
彼女は肩をすくめた。「わたしたちはみんな犠牲を払わなくてはならない。救済を確保するためにわたしが世界に代わって鞭打たれる少年になる必要があるのなら、それがわたしが払うべき犠牲よ」
「奇妙な論理ですね」とぼくはいった。
「そんなことはないわ。ほかには種の絶滅という選択肢しかないとなったら、とても簡単な話よ。倫理的なジレンマもなければ、誰にとってなにがベストか考える必要もない。このプロジェクトを推し進めることに専念するのみ」>
<彼女は両腕を身体にまわした。彼女がこれほど弱々しく見えたことはなかった。「栄養不良。混乱。飢饉。社会的インフラのすべてが食料生産と戦争につぎこまれる。社会の基本構造がばらばらに分解されてしまう。疫病も流行するでしょう。さまざまな疫病が。世界中で。医療システムが追いつかないからよ。これまで簡単に押さえこめてきたものが抑制できなくなってしまう」
彼女はくるりとぼくのほうを向いた。「戦争、飢饉、疫病、そして死。アストロファージはまさに黙示録よ。いまのわたしたちにあるのは〈ヘイル・メアリー〉だけ。どんなに小さかろうと、成功率を高める要素があるなら、わたしはどんな犠牲でも払う」>
この物語は「人はなぜ<自己犠牲>を選択するのか」に関する物語とも言えると思います。
宇宙での<経験>は主人公にその「決断」を選択させます。
でもその根本には、このストラットの「覚悟」があったと思うんですよね。
反発しながらも、主人公は誰よりもそのことを理解していたのではないか…と。
本書の不満があるとしたら、ストラットの「地獄」での奮闘が描かれないことかな。
それを描くにはさらに倍ぐらいのボリュームが必要かもしれませんがw。
本作はライアン・ゴズリング主演で映画化が進行中とのこと。
いやぁ、アレやコレがどんな風に映像化されるのやら。
これまた、楽しみ、楽しみ。
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