鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

こんな一気読みは久しぶりでした:読書録「嫌われた監督」

・嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか

著者:鈴木忠平

出版:文藝春秋(Kindle版)

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「無茶苦茶、面白い」

という評判は聞いていました。

でもまあ、別に「中日ファン」じゃないし、バッターとしての落合は嫌いじゃないけど、監督してはよ〜分からんし〜…ってな感じで、スルーしてたんですよ。

それがたまたま年末最終日の退勤時に読むものがなくなっちゃって、何となくポチッとして、帰りの電車の中で読み出したら…

 


いや〜、止まらない、止まらない。

 


夕食を挟んで、一気に読み上げてしまいました。

先に読んだ「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2」もすぐに読んじゃったんですが、それ以上の勢いでした。

こんなのは久しぶりだな〜。

 

 

 

作品としては「落合博満」が中日の監督であった「2004年〜2011年」を追っています。

この間の中日の成績はリーグ優勝4回(10年・11年は連覇)、日本一1回、8年間全て「Aクラス」という素晴らしい成績。

それでありながら、11年のリーグ優勝<前>に「解任」(正確には契約満了・更新せず)というのが、「嫌われた監督」としての<落合博満>なのです。

 


本書の面白さは、題材である「落合博満」に深く踏み込んで描くのではなく、その周りの選手に、そのキーとなるタイミングで焦点を当てることで、結果として「落合博満とは何者なのか」という問いへの答えを浮かび上がらせようとしているところです。

まあ、正面から落合に取材しても、ホントのところをどこまで話してくれるかわかりませんからねw。

落合から投げかけられた「問い」への答えを模索し、自分なりの答えを見出す選手たちの姿は、本作を描く作者自身の姿でもあるのでしょう。

 


2004年:川崎憲次郎 

2005年:森野正彦 

2006年:福留考介 

2007年:宇野勝 

2007年:岡本真也 

2008年:中田宗男(スカウト)

2009年:吉見一起

2010年:和田一浩

2011年:小林正人

2011年:井手俊

2011年:トニ・ブランコ

2011年:荒木雅博

 


「落合体制」を築き上げていく04年・05年。

一つのピークを迎える06年・07年。

模索の時代の08年・09年。

落合が解任される流れとなりながら、チームとしては連覇する10年・11年。

 


どれもヒリヒリするような展開で、読みどころ満載なんですが、個人的にはやっぱり「07年」。

あの「完全試合」目前で投手を交代させた日本シリーズですかね。

そこで取り上げるのが、交代させられた「山井大介」でも、リリーフした「岩瀬仁紀」でもなく、「宇野勝」と「岡本真也」。

野球に情とロマンを求める「宇野」と、情の結果を知る「岡本」の二人から、この「孤独な決断」を多面的に語っています。

ここ、ちょうど読み始めたのが、電車を降りるところだったんですが、そのまま(07年の章を)読み終わるまで、ホームに立ち尽くしてしまいましたw。

 


<勝者とは、こういうものか……。

私は戦慄していた。

落合は空っぽだった。繋がりも信頼も、あらゆるものを断ち切って、ようやくつかんだ日本一だというのに、ほとんど何も手にしていないように見えた。頭を丸め、肉を削ぎ落とした痩せぎすのシルエットが薄暗い駐車場に浮かんでいた。一歩ドームを出れば、無数の批難が待っているだろう。落合の手に残されたのは、ただ勝ったという事実だけだった。 

闇の中にひとり去っていく落合は、果てたように空虚で、パサパサに乾いていて、そして、美しかった。>

 


落合って、決して「非情」な人じゃないんですよね。

家族との関係を見てればわかるし、本書でもそれぞれの選手に、実は結構な「情」をかけている。

でも一方で「勝つためには何が必要なのか」も分かっている。

その二つが相反した時、「どういう決断をするのか」。

本書の大きなテーマはそれなのかもしれません。

 


(あと「謎解き」もあるかなw。

落合が投げかねた「問い」の答えを探す。

荒木雅博がコンバートされた理由が明らかになるシーンはミステリー的に「やられた」感がありました)

 


<十年に一度くらい優勝すれば、名古屋のファンはそれを肴にして次の歓喜を待つことができる。失敗することも、敗れることもある。ただ、次こそは次こそはと、歓喜を夢想できればそれで幸せではないかという思いがどこかにあった。>

 


阪神ファンだった僕の感覚はコレに近かったかもw。

でも落合が求めていたのは、そんなものではなかったんですよね。

そこには安易な「ロマン」はない。

でもこうやって大きな流れの中で見ると、一歩進んだ「ロマン」(それは「哲学」にも似ている)を強く感じることができます。

 


<「俺が本当に評価されるのは……俺が死んでからなんだろうな」 >

 


死ぬ前の本書が書かれたのは、果たして落合本人にとってどうだったのか。

本人の感想が聞きたいです。

…正面からは答えてくれんかw。

 

 

 

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