鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

新趣向の解説書?:読書録「フラウの戦争論」

・フラウの戦争論

著者:霧島兵庫

出版:新潮社

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「戦争とは他の手段をもってする政治の継続である」

 


…のクラウゼヴィッツの「戦争論」が書かれる過程を小説仕立てで追いながら、「戦争論」の概要を解説する構図になっている作品。

クラウゼヴィッツ自身が経験した「ナポレオン戦争」の6つの戦いを回想しながら、「戦争とは何なのか」を追いかけつつ、クラウゼヴィッツと妻マリーの穏やかな生活も描くという、なんか変な構成の作品なんだけどw、これがナカナカ面白い。

僕自身はクラウゼヴィッツの「戦争論」は読んだことなくて、漠然とした概要くらいしか知らないんですが、読み終えると、難解と言われる「戦争論」について、何某か「分かったような」ことを言えるような気分になりますw。

 


良くも悪くもキーは「ナポレオン」。

戦争の天才であり、絶対戦争(相手を叩きのめす戦争)においては絶対的であった「ナポレオン」が、なぜ最終的には敗れざるを得なかったのか。

鮮やかなナポレオンの戦いに魅入られながらも、クラウゼヴィッツは「局面の戦闘に勝つだけでは戦争に勝利することはできない」という観点から、「政治」などの外部要因によって帰趨が左右される「制限戦争」の概念を考えます。

 


「戦闘に勝つ」≠「戦争に勝つ」

 


それ故にこそ、「戦争論」は単なる戦略・戦術論にとどまらず、哲学・概念的な内容を孕むことになります。

 


<戦争は暴力と暴力のぶつかり合う単純な闘争行為に見えて、その実、矛盾と混沌に満ちている。戦争のある側面を捉えているからといって、その一面的理解を基礎として全体を単純化してしまった理論は、いつの日か現実に報復される。>

 


もっともナポレオンの戦いぶりがあまりにも鮮やかなために、その分析に力が入ってしまい、結果として「戦争論」そのものが一貫性を欠いてしまった面もあるようですがw。

ここら辺、実際の個々の戦闘の経緯なんかとも重ね合わせることで、多面的でありながらも、臨場感のある内容になっています。

 


ただ個人的にはもうちょいクラウゼヴィッツ夫妻の姿を見たかった気分もありますがね。

この二人の漫才的な駆け引きは、クラウゼヴィッツのちょっとした間抜けぶりもあって、ナカナカ微笑ましいんですよ。

史実としても、「戦争論」を世に出したのは、遺稿をまとめた妻のマリーのようです。

夫妻の凸凹ぶりが気持ち良くて、悲惨な戦闘の経緯を追いかけるよりは、こっちの方を描いて欲しかったなぁ…

 


…って、ここんところ「逃げ恥」やら「愛の不時着」やらで、好き同士のマッタリドラマを見過ぎたかなw。

 


概念的な「戦争論」の面倒臭さwに比べて、本作は読みやすく、楽しい出来。

僕は好きですよ。