・TRUST 世界最先端の企業はいかに<信頼>を攻略したか
著者:レイチェル・ボッツマン 訳:関美和
出版:日経BP社(kindle版)
「シェア」の作者の最新作。…と言うより、「続編」と言った方がいいかもしれません。
http://aso4045.hatenablog.com/entry/20110227/1298769271
「ネットでしか知らない<他人>からサービスを買ったり、モノをシェアしたりすることがどうしてできるのか?」
すなわち、
「どうして他人を<信頼>できるのか?」
考えてみれば「シェア」の根幹もソレ。
本書はそこから一歩踏み込んだ内容になっています。
正直言って、ここ最近読んだ本の中では、1、2を争う興味深い本でした。
内容としては「シェア」で大きな成長をした企業(UberとかAirbnb)から、
巨大化しすぎて「信頼」の取り扱いに懸念がある企業(GoogleとかFacebookとか)、
成長を追い求めるあまり「信頼」を失った企業(リーマンショックのときの金融機関)、
「信頼」によって新しい形での「透明性」を持ちつつあるダークウエブの世界、
市場に寄り添いながら「信頼」を気づきあげているスタートアップ企業、
「ブロックチェーン」技術を踏まえ<分散した信頼>による新しい世界を模索する企業
…と「信頼」をキーにして幅広い実例を踏まえた考察を繰り広げています。
今の世界が、新しい「信頼」のあり方を模索している時代であることが概覧できる一冊だと思います。
個人的に一番面白かったのは、中国が取り入れようとしている「国民格付け制度」(SCS)の話。
2020年に義務付けが目されているこの制度は、<国家がレビューの基準を決め人々のレーティングを監視>する制度で、その前段階として、すでにアリババのジーマ信用なんかがワークしています。
作者は当然、これに対しては「とんでもない」「恐ろしい」ってスタンスなんですが、僕自身は、
「そう言い切れるかな?」
と正直思っています。
いや、国家が恣意的に<評価>に介入して、それをベースに社会の信用が構築するってのは僕も恐ろしいですよ。
でも「個人の格付け制度」そのものが否定されるべきなのか?
ある種の「信頼の透明化」がそこでなされているのも事実。「不透明な基準で信頼がやり取りされている」って言う意味では、現状の方が曖昧で恣意的な部分が多いでしょう。
作者はブロックチェーンのところで、システムの透明性・倫理性・公平性を維持する上における「ヒト」の存在の重要性と危険性についてコメントしていますが、これって「個人の格付け制度」についても言えることじゃないですかね?
その格付け制度の「信頼性」をシステムではなく、システム外部に担保させる。
その「外部」として、「システムを構築した個人」は信頼できるけど、「国家」は信頼できない。
…ってのは論理的とは言えないんじゃないか、と。
「制度そのもの」も分散されることがポイントなんだと思うんですよ。
「国家」の場合は、それが一本化されてしまい、他の制度の競合を許さなくなる。
「個人」「民間」の場合は、制度(システム)において競合相手が存在することから、牽制効果が働くとともに、イノベーションによる制度のレベルアップも図ることができる。
僕自身は「AI」も同じだと思っていて、シンギュラリティが来ても「AI」が合理性の元に統一のものとなるとは思えないんですよね。
そこには常に競合状態があって、「AI」同士の切磋琢磨は継続していく。
未来はそう言う姿であって、「ビッグブラザー」のようにはならないのではないか。
すなわち、国家が主導するような「格付け制度」は「ビッグブラザー」的であるし、イノベーションの観点からも課題がある。
しかしながら民間等での競合関係のあるような「格付け制度」による「信頼の透明化」には<可能性>があるのではないか。
…と言うのが僕のスタンスです。
まあ、もちろん楽観的すぎる可能性もありますけどね。
<ナチが共産主義者を襲つたとき、自分はやや不安になつた。けれども結局自分は共産主義者でなかつたので何もしなかつた。
それからナチは社会主義者を攻撃した。自分の不安はやや増大した。けれども自分は依然として社会主義者ではなかつた。そこでやはり何もしなかつた。
それから学校が、新聞が、ユダヤ人が、というふうに次々と攻撃の手が加わり、そのたびに自分の不安は増したが、なおも何事も行わなかつた。
さてそれからナチは教会を攻撃した。そうして自分はまさに教会の人間であつた。そこで自分は何事かをした。しかしそのときにはすでに手遅れであつた。
— 丸山眞男訳<彼らが最初共産主義者を攻撃したとき>>
これを忘れちゃいけません。
そう言う観点からも、常に「監視」と「問題提起」は必要だとも思います。
なんか面倒臭くなっちゃって、つい丸投げしたくなっちゃう時もあったりもしますがw。