・世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」
著者:山口周
出版:光文社新書(Kindle版)
KindleのDLを確認してて、
「はて?いつ買ったっけ?」w
評判になったのは知ってたけど、スルーしてたつもりだったんですが…。
いつかのキャンペーンか何かで買っちゃったんですかね、勢いでw。
まあでも、読んでみたら、コレが予想以上に面白い。なんとなく「拾い物」した気分です。
(ベストセラーになってるんだから、僕がウカツなだけですがw)
コンサルタントらしく、結論は冒頭にまとめられています。
作者による「現在」の環境認識は、
1 論理的・理性的な情報処理スキルの限界が露呈しつつある。
2 世界中の市場が「自己実現的消費」へと向かいつつある
3 システムの変化にルールの制定が追いつかない状況が発生している
そのため、
<これまでのような「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた経営、いわば「サイエンス重視の意思決定」では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできない>
それを乗り越えるのが「美意識」…と言うわけです。
<この問題を解決する方法は一つしかありません。トップに「アート」を据え、左右の両翼を「サイエンス」と「クラフト」で固めて、パワーバランスを均衡させるということです。
よく企業の経営をPDCAサイクルと言いますが、言い換えればPlanをアート型人材が描き、Doをクラフト型人材が行い、Checkをサイエンス型人材が行うというのが、一つのモデルになると思います。>
本書はこの現状分析と、対応策としての「美意識」について、具体例をあげながら、「論理的・合理的」に解説くれてます。
この具体例のあたりがまあ、また面白いわけですが(ホリエモンに何か恨みでも…って感じもw)、切れ味が良すぎるところは、もしかしたら作品のテーマとはズレてるかもしれませんw。
でも「サイエンス」(数字)と「クラフト」(現場)が優先されるあまり暴走して、おかしなことになっちゃう事例は「東芝」「電通」をはじめとして枚挙にいとまがありません。
そこまで行かない「小さなおかしなこと」は現場にゃ山ほど…(自粛w)。
そう言う観点から、作者の分析と指摘は当を得てると、僕は思います。
じゃあ「諸手を挙げて賛成か」と言われると、躊躇する面もあるんですがね。
一番は「空気」。
この点は作者もこう指摘し、
<現在、多くの日本企業が、巧拙はともかく、プロセスとしては「論理」×「理性」を重視して、なるべく合理的な意思決定をやろうともがいているのは、かつての日本軍のような意思決定のあり方、つまり「その場の空気」に流されてなんとなく決めてしまう、というような事態を、決して招くことのないようにという、一種の過剰反応なのだと考えることもできます>
要は「バランス」と言ってるんですが、そこがかなり怪しい。
保阪正康氏は東条英機をはじめとした昭和軍人官僚の「文学的素養のなさ」を指摘していましたが、本書でも作者は日本のエリートについてオウムの例を挙げつつ、
<「偏差値は高いけど美意識は低い」という人に共通しているのが、「文学を読んでいない」という点であることは見過ごしてはいけない何かを示唆しているように思います>
と指摘してます。
今の安倍政権でのあれやこれやや、各種団体トップの何やかんやなんか見てると、
「美意識や哲学なんかないんやろうな」
と思わざるを得ず。
そんな人に「直感優先で」とか言ったら、大惨事なんじゃないですか?
…と言っても、「じゃあサイエンスとクラフトで行くのか?」って言われても心許ないし、
環境変化に追いつかないのも確か。
成果が出ないんだから、そこをキーにしつつ、美意識をもって経営を評価するような社会的土壌を促成栽培していくしかないってのが、結論かな〜。
(「恥の文化」を引き合いに、その難しさも作者は指摘してますが)
まあ、考えてみれば、「人間社会」って元々そう言う難しさ・複雑さを孕んでるとも言えるんですけどね。
なんか単純に「美術館行って絵を見よう!」みたいな本かと思ってましたが(失礼w)、もっとリーチがあって深い作品でした。
一読に価値はあると、僕は思いますよ。