鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

また転換点が…:読書録「大世界史」

・大世界史 現代を生きぬく最強の教科書
著者:池上彰、佐藤優
出版:文春新書(kindle版)

大世界史 現代を生きぬく最強の教科書 (文春新書)

大世界史 現代を生きぬく最強の教科書 (文春新書)


本書を読んでる最中にパリでの同時多発テロのニュースが…。
「911」に典型的に顕れたように、こうした事件は決定的な「転換点」を歴史にもたらす可能性は極めて高いでしょう。
「移民問題」や「格差問題」も絡みつつ、どういった流れになるのか…。


本書の意図については佐藤氏が以下のように書いています。


<本書の『大世界史』というタイトルには二つの意味がある。第一は、世界史と日本史を融合した大世界ということだ。日本の視座から世界を見、また世界各地の視座から日本を見、さらに歴史全体を鳥瞰することにつとめた。第二は、歴史だけでなく、哲学、思想、文化、政治、軍事、科学技術、宗教などを含めた体系知、包括知としての大世界史ということだ。>(おわりに)


その観点から取り上げられている「視座」が以下。


中東こそ大転換の震源地
オスマン帝国の逆襲
習近平の中国は明王朝
ドイツ帝国の復活が問題だ
「アメリカvsロシア」の地政学
「右」も「左」も沖縄を知らない
「イスラム国」が核をもつ日
ウェストファリア条約から始まる
ビリギャルの世界史的意義


中東に関しては「混乱の脱却は難しい」との視点から、アラブの世界への相対的な影響力が下がることを想定しつつ、「オスマン帝国(トルコ)」と「ペルシア帝国(イラン)」の伸長という視点を提示しています(「帝国」という視点から現代世界史を見るというのが、本書のベースにはありますからね)。
個人的にはこれは気づいてなかった視点なんですが、今回のパリ同時多発テロでどういう流れになるのか…。
「イスラム国」の核武装化などの可能性なんかも考えると、かなり複雑な見方が必要になる思います。
「移民問題」「格差問題」で揺らいでいたEU問題(これは「ドイツ帝国」問題ともいえるでしょう)も、間違いなく転換点を迎えたと言えるでしょう。


本書については(特に佐藤氏の問題意識の部分ですが)「沖縄問題」については、「なるほど」と思いつつ、やや先鋭的すぎる印象もあります(これは単に僕が「本土人」だからって可能性も少なくありませんが)。
一方で「反知性主義」に関するスタンスは僕の問題意識と重なりますね。


<反知性主義とは、客観性、実証性を軽視もしくは無視して、自らが欲するように世界を理解する態度をいう。>


アメリカのプラグマティズムやプロテスタントの流れに重ねて、一部エリートによる「知の独占」への対抗としての「反知性主義」が重要な意味を持っていたことは確かでしょう。ただ「現時点」においては、そのことが「知性」そのものを軽視する流れとなってしまったことこそが問題であり、それが政治的勢力にまで蔓延してしまっている…ということに僕も危惧を感じます。(特に日本で、ですが。「左翼」メディアの「上から目線」に対する反発はよくわかりますが、そのことと「知性」軽視は別の話でしょう)
そういうところと一線を画した階層があるヨーロッパにはヨーロッパの深刻な課題があるのではありますが。(今回の同時多発テロはそこを浮き彫りにするかもしれません)


我々は「未来」をあらかじめ知ることはできず、「過去(歴史)」にしか学ぶことができません。
ソコに一定の限界があることは認めつつ、それでも謙虚に「歴史に学ぶ」ことこそ、混乱と不透明さが濃くなる現在においては重要なことなのではないか。
僕はそう思うんですがね。