鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「太宰治の辞書」

・太宰治の辞書
著者:北村薫
出版:新潮社

太宰治の辞書

太宰治の辞書


<私>シリーズ最新作。
・・・って前作から15年以上!(出版社も東京創元社から新潮社に変わってるし)
作品の中でも時間は経過し、「私」は結婚して、いまや中学1年生の息子がいるという・・・。
いやぁ、まさか出るとは思いませんでしたね、続編。


「日常ミステリー」の先駆け&決定版みたいな感じで世に出たシリーズですが、「六の宮の姫君」あたりから「書籍ミステリー」(実際にある過去の名作の「謎」を追いかけるスタイル)にスタンスを移していて、本作では「太宰治」が題材。
「太宰かぁ・・・」
と、太宰が苦手な僕はチョット腰が引けちゃったんですがw、読み始めたら一気でした。
それどころか、
「あれ?太宰ってこんなに面白かったんだっけ」
と、Kindleで「太宰治全作品」をDLしちゃいました(200円だけど)。
僕の苦手意識は「人間失格」や「グッドバイ」あたりから来てるんだけど、それだけが「太宰」じゃないんですよね。
「女生徒」「舞踏会」
読んでみたいと強く思っています。


本作では過去に探偵役を務めていた「円紫」さんはワンシーンしか登場せず、シリーズが「日常ミステリー」ものから遠く離れちゃったことを実感させられます。
でも、それもこのシリーズだと「自然」かな?
「日常ミステリー」が成立する背景には、登場人物の「若さ」や「未熟さ」って、結構重要なファクターですからね。そこを「大人」(このシリーズだと円紫さん)が指摘するところに「謎解き」が成立してるわけです。
中一の息子がいる女性だと、ちょっとこの構図は不自然。
そこを無理して進めると、作品は重くなりすぎるように思います。
こういうスタイルでの「続編」というのは「うまい」と思うし、シリーズとしての「必然」でもあるのかもしれません。


もっともかつての「日常ミステリー」のりも読みたい気もするんですがね。
割と作者自身がそういう路線から距離を置きつつあるんで、無理かなぁ、この希望は。
ま、それならそれでよいので、是非とも今度はそれほど間を開けずに「次」を読ませていただきたいな、と。
「私」の家族の話も読んでみたい気がしますしね。(ちょっと旦那さんは「出来過ぎ」な気もしますがw)


(北村薫は自作を電子書籍化してないので、本書が出版されてるのに気づくのに少し間がありました(出版は15年3月)。電子書籍に軸足を移したことで、リアル書店に定期的に顔を出さなくなってますからね。
「なぜ電子書籍化しないのか」
それは本書を読むと何となくわかります。「本」という形態が、本当に好きなんですよ。北村薫は。
分かるんだけど、電子書籍化、やっぱりして欲しいなぁ)