鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「日本の景気は賃金が決める」

・日本の景気は賃金が決める
著者:吉本佳生
出版:講談社現代新書



「スタバではグランデを買え!」のエコノミストによる「アベノミスク」への提言書。
統計や数学的なデータに基づく論理的な解説を行う作者らしく、各種の公表データをベースにしながら、「アベノミスク」の意味、目指す方向を解説、そこへの批判/修正提言を行っている。
非常に読みやすくて説得感のある内容だと思うよ。
このポジションの評論家の場合、「新自由主義」的な考えに近しいところがあると思うんだけど(「最低賃金引き上げ」に反対するところかね)、一方で層別に具体的にデータを観ることで、経済政策に対して「弱い輪」である層(例えばシングルマザー)への目配りが必要だとする作者のスタンスには、それだけじゃない「芯」を感じさせるところがある。



「アベノミクス」との関係で本書が指摘し、修正しているのは以下の点になる。



①金融緩和:金融緩和を不動産価格上昇に使う
②公共事業拡大:公共事業は都市部で交通網整備などの使う
③成長戦略:人口の都市部への集積でサービス業は成長



ベースには、
「現在の世界的金融緩和はどこかにバブルを発生させざるを得ない。日本の経済に好影響を与えるには、国内でバブルを発生させなければ無意味」「消費性向が高いのは収入少ない層。この層にお金が回る仕組みを作ることで国内消費が上がり、景気が上向く」「消費性向が高い/収入が少ない層はサービス業に圧倒的。この層に効率的にお金を回すためには都市化を進めることが効率的であり、そのキーは不動産価格の上昇にある」
といった分析がある。
金融緩和とバブルの関係なんか、なかなか読ませる分析だと思ったよ。
「賃金上昇」がキーになることは安倍政権も認識していて大企業への賃上げ要請なんかしてるけど、作者の視野はもっと広くて深い。一考に値する視点だと思う。(猪瀬都知事が「地下鉄24時間営業」みたいなことを言ってたけど、こういう視点に立つと、悪くない施策ということになるかな)



むしろ本書への批判は経済的なところよりも文化的社会的(?)な視点から出てくるかなぁ。
集中化した都市生活における生活満足度/幸福感
都市における教育レベルの問題(私立と公立の二極化が強く進んでいる状況の評価)
都市集中と大規模自然災害のインパクト etc
それでも本書が提示している分析や解説は一読に値するだろう。
賃金上昇が今後の景気回復のキーになる。
これは間違いないからね。



僕自身は本書で「既得権益者」と分類される層に所属していることになる。
そういう意味じゃ、本書の提言には困った点も多いんだけど(持ち家持ってないしw)、そこは「合成の誤謬」。さらに視野を自分の後の世代にまで広げると、自ずと見方が変わる部分も出てくる。
まあ「金融緩和だけじゃ限界がある」ってのは、「リフレ論者」も言ってることだし、その次の段階として、こうした具体的/層別に施策のインパクトを整理し、きめ細かく手当てするってのは、絶対に必要だと思うよ。



最近、安倍首相は戦車なんかに乗っかって、やや歴史認識の方に比重を置いてるような素振りが見えるけど、やるべきことは「まだまだある」ってことを認識して欲しいなぁ。