鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「それをお金で買いますか」

・それをお金で買いますか 市場主義の限界
著者:マイケル・サンデル 訳:鬼澤忍
出版:早川書房



「これからの『正義』の話をしよう」のマイケル・サンデルが、「市場主義」について批判的に論じた作品。
「正義」を功利主義・自由主義の論理ではなく、公共/共通善/道徳(倫理)の立場から論じるのが作者の立場だから、その批判の矛先が市場主義に向くのは当然。
と言うか、「本丸」はこっちかもw。



公共や倫理観を重視するサンデルの立ち位置はある意味「保守」なんだけど、功利主義/自由主義/市場主義に寄って立って「正義」や「善」を主張する陣営との対立や議論を通じることで、作者自身の思想が強化されるとともに、(かつてある種牧歌的に「道徳」や「正義」を主張してた時代があったのに比して)その「困難さ」にも自覚的であるところが、「現代的」って感じかな。
本書ではサンデルは結構断定的に市場主義を批判したりもしてるんだけど、基本的には「議論し、考えなければならない」というスタンスであって、決めつける立場は取っていない。



確かに非市場的価値観(妊娠や、生命、市民生活文化や教育etc)にまで市場価値が進出してきている現状に対し、作者は警鐘を鳴らす。
その最も重要なポイントは、市場価値が持ち込まれることによって非市場的価値観が減少するだけではなく、その価値観そのものが破壊されてしまうところにある(保育園の引き取り延長に関する事例なんか、象徴的)。



だが一方で市場価値の導入で効率化が図られる領域があることも事実。
人類の歴史が進歩していると考えるなら(このこと自体に疑問を呈することは出来る。でも僕は戦国時代も江戸時代も、明治時代ですら今よりいいとは思えないけどね)、ある種の合理性(これは市場価値と親和性が高い)がそこに寄与したとは言えるんじゃないかね?
つまりは、作者も指摘するように、ここには「価値観」「思想」の問題がある訳だ。



「『市場価値』に毒されるべきでない、『非市場的価値観』は何なのか?」



これは難しい。
特にそれを政治や経済において「合意形成」するのは、「どうやって/誰が、それを決めるのか?」という点において、それ自体が政治的にハードルの高いイシューになってしまう。
まあ、逆に言えば、この困難さを回避する意図においても、「市場主義」の非市場的価値感への適用がなされてきたってのもあるんだろうね。
だが現在の世界情勢/経済情勢を見ると(直接的には「リーマンショック」のインパクトが大きいが)、我々はこの「困難さ」に目を向ける必要があるところに追い込まれているような気がする。
「フクシマ」が日本人に突きつけているのも、根本においてはココに通じるところがあるんじゃないかなぁ。



前作同様、豊富な具体例が挙げられていて、自分自身で色々なことを考えるキッカケとなる、非常にいい作品だと思う。
僕自身はサンデル氏の意見には賛同するところが多いと思ってたんだけど、本書を読んで気付かされたのは、むしろ僕の考え方/思考パターンには、結構「市場主義」的な考え方があるってことだったねw。
反省するところもあったけど、「これは線引きが難しい」と考えさせられたことも多い。



そういう自問のキッカケとしても、刺激的な作品でした。