・おおきなかぶ、むずかしいアボガド 村上ラヂオ2
著者:村上春樹
出版:マガジンハウス
東日本大震災後、村上春樹がスペインで行った演説はちょっとした評判になった。
「非現実な夢想家」という題名で語られた内容は、自然災害と向き合わなければならない日本人の宿命について語りつつ、今後の向かうべき方向性について話をしている。
まあ概ね「脱原発」路線の話で、そのことに対しては「経済的に無理」「合理的じゃない」「時代錯誤」ってな反発も一部買いながら、全体としては好意的に受け止められたんじゃないかなぁ。
村上春樹自身はスピーチ嫌いを公言してたと思うけど、少し前のエルサレムでのスピーチなんかも考えると、微妙な時事的状況に対してもキッチリ物申すところはナカナカのものだ。
勿論アプローチは極めて「小説家」的で、それも「らしいな」と思わせるんだけどね。
「非現実な夢想家」に関しては「今になってこんなことを言うのは後付だ」って意見もあったけど(田原総一朗だっけ?)、僕自身はむしろ「50年代」「60年代」的価値観に対する村上春樹的な立ち居地が覗えるなーって感じて面白かった。
「よきもの」として捉えながらも、現実との鬩ぎ合いの中で敗れ去って行ってしまった価値観。
しかしながら福島原発の現実に向かい合ったとき、その「後退」こそが問題だったのではないか。
僕はそう読んだんだけど、どうかな?
で、本書。
<時事的な話題は避ける>(P.32)
って方針で書かれた本書は、
<結果的に話題は(中略)「どうでもいいような話」に限りなく近づいていく>(P.32).
まあ僕もそういう「どうでもいいような話」は大好きなんで、それはそれで楽しませてもらった。
それでいて、そんな与太話の合間からも、時に「失われたよき価値観」に対する哀惜の念のようなものが顔を出したりする。
ここら辺の具合が、彼の時事的なスピーチに繋がるところがあるんだよね。
そこら辺が「村上印」?
別にそういうのが読みたくて読んでるわけでもないんだけどさ。
ま、基本は「与太話」。
時に、ふと考えさせられるところがあったりもする。
そーいう本です。