鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「日本人の誇り」

・日本人の誇り
著者:藤原正彦
出版:文春新書


大ベストセラー「国家の品格」の作者の新刊。
どうも売れてるようなので、乗っかってみましたw。
(まあ「国家の品格」ほどの勢いはないと思うけど)



<「真、善、美は同じ一つのもの」というのは万物の本質を突いた恐るべき指摘なのです。美しいものを目指すことが万事において真へ達する道であり善に到達する道なのです。>(P.31)



一言で感想をまとめると、「美しくない」ってトコかな?w



本書の大半は日中戦争・太平洋戦争前後の流れを追いつつ、戦後の米国策略(WGIP=罪意識扶植計画)の影響を払拭することに力点をおいている。
この内容自体は、確かに保守論調に属するものなんだけど、結構「バランス取れてる」って印象なんだよね(これは「国家の品格」のときも思った)。

例えば満州事変後の日本の対応のまずさなんかも指摘してるし、相互扶助を目指したはずのアジア主義が、日本の独善的な大アジア主義に転じてしまったことへの批判も加えている(ここは田原総一朗に通じるところがある)。
勿論、南京大虐殺の欺瞞や、開戦間際の米国の思惑(先に日本に撃たせる)なんかにも紙面は割かれているけど、こういうところも含めて「バランス」の取れた内容なんじゃないかと思う。



僕が「美しくない」と思うのは「題名とのバランス」。
「日本人に誇りを取り戻させるためには、戦後占領施策に始まる呪縛を解かなければ」
ってのは分る。
分るんだけど、何だか主張が、
「帝国主義時代においては日本がやったことも欧米がやったことと変わりがない」
みたいな相対論に立脚してるような印象になっちゃって、その延長で「誇り」って言われても、「何だかなぁ」って感じになっちゃうんだよねぇ。
いっそ題名が「米国の罪意識扶植計画」みたいな感じだったら、そういう印象もなかったと思うんだけどさ。(そんな本が売れるかどうかは分らないけど)

「日本人の誇り」という題名なら、やっぱり日本文明について正面から取り上げてほしかったと思う。
そういう作品の必要性が、今高まっていることも事実だと思うしね。



第二次大戦については僕自身は「善悪」「正邪」という観点よりも、「なぜ負けたのか?」「勝てる道あるいは避けうる道はなかったのか?」という観点の方が重要だと考えている。



<東亜新秩序などという美しいスローガンはあるものの、弱い者いじめに近い日中戦争は、武士道精神のまだ残っていた多くの国民にとって憂鬱な戦いだったのです。(中略)屈従や野垂れ死にの淵に立たされた日本が、祖国の名誉と存亡を掛けて、世界一の大国(=アメリカ)に対し敢然と立ち上がったことに、民族としての潔さを感じ高揚したのです。>(P.208)



実にエモーショナル。

しかし国家を率いるものとしては、これはまずいでしょう。
如何に「屈従や野垂れ死にの淵」に立ったされないようにするか。
国家の存在意義はそこにこそあると、僕は思う。



まあ大上段な題名はともかく、内容は興味深いし、近代史を考える上において重要な視点を提示してくれると思う。

読んで損はない本だとは思うよ。