鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

「物書き」に生まれつき、去っていった:読書録「無人島のふたり」

・無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記

著者:山本文緒

出版:新潮社

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2021年10月に膵臓がんで58歳で亡くなった山本文緒さんが、21年4月にがん宣告を受け、抗がん剤治療を断念して緩和ケアへ移行した21年5月から、亡くなられる寸前の10月頭まで書かれた日記をまとめたもの。(最後の日記が10月4日。亡くなられたのが13日です)

 


「山本文緒」と言う作家の存在はもちろん知っていましたが、僕は良い読者ではなくて、多分読んだのは「恋愛中毒」くらい(もしかしたら「プラナリア」も)。

でも新刊で「自転しながら公転する」が出た時に、

「面白そうだな〜」

と思い、買うかどうか逡巡しているうちに、作者の訃報に接することになってしまいました。

あの時、読んどきゃ良かった…。

 


山本さんは割と自分が辛いタイミングの時に「日記」を書いて発表されてたらしく、本書も(死後に)発表することを前提で書かれています。

だからと言って「構った」風はあまり見えなくて、比較的淡々と闘病の日々が描かれていて、その中で不意に胸を突く文章が飛び出したりします。

いやはや、上手いです。

 


こういう時に、こう言う文書を書いてしまうと言うこと自体、「山本文緒」と言う人が「物書き」としての資質を強く持った人だったと思うし、それに相応しいものを残してきたんだろうな…と感じたりしました。

もっとチャンと読んでおけば良かったなと、改めて。

 


「緩和ケア」「在宅医療」という観点からの一つの事例として読むこともできる作品とも言えますね。

色々考えながら読了しました。

 

 

 

#読書感想文

#無人島のふたり

#山本文緒

「本多政長」が主人公の巻w:読書録「百万石の留守居役 舌戦」

・百万石の留守居役 舌戦

著者:上田秀人

出版:講談社時代小説文庫

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このシリーズは「時間がある時にまとめ読み」と思ってるんですが、前巻の引きがあまりにも「いいところ」過ぎたので、松山から戻って来て読み続けてしまいましたw。

 


将軍・綱吉に呼び出され江戸に出てきた本多政長が、まずは評定所で大久保加賀守たちと対決し、その後、綱吉との謁見に…と言う巻。

「福井編」から前巻が大立ち回りの連続だったのから一転して、本巻では題名通り「舌戦」が続きます。

でも「緊張感」から言ったら、こっちの方が上かもw。

将軍は本多政長個人の生殺与奪を握ってるだけじゃなく、加賀百万石の行く末さえ左右できる存在ですからね。

単に言葉を交わすだけでなく、そこでの失言が全てを決しかねないと言う緊張感。

シリーズ屈指の1巻だと思います。

…と言うか、ここで終わっても良いくらい?w

 


徳川家康と本多正信の関係

直江状をめぐる謀臣たち(直江兼続と本多正信)の策謀

徳川政権初期の寵臣たち(大久保忠隣、本多正信)の戦い

加賀百万石が生き残るための藩主と忠臣の苦闘

 


…といった背景が、大久保加賀守との対決、綱吉との謁見に活きて来ます。

いやぁ、面白かった。

もっともその舞台に立つのが主人公であるはずの「瀬能数馬」ではなく、その義父である「本多政長」ってのが、何ですがw。

 


本巻の引きから考えると、次は国元(加賀藩)での<大掃除>かな?

琴姫の活躍が読めるとすれば、それも楽しみ。

…ですが、これはまた「時間ができた時」でいいか。

来月頭にはコロナワクチンの接種もあるしw。

 

 

 

#読書感想文

#百万石の留守居役

#上田秀人

毎巻こんな騒動が起きてたら、大名は潰れまくりw:読書録「百万石の留守居役」

・百万石の留守居役 忖度・騒動・分断

著者:上田秀人

出版:講談社時代小説文庫

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上田秀人さんの作品は母が気に入っているので、弾丸帰省に合わせて読み置いてくるために急いで読みました。

2日で三冊…の読みだったんですが、1日目で読み終えちゃったけどw。

 


10巻(忖度)・11巻(騒動)は<福井編>。

藩主(前田綱紀)暗殺未遂事件の「裏」を炙り出すために主人公(瀬能数馬)が福井松平藩に赴き大活躍!

…なんですが、仮祝言をあげた琴姫と配下の女軒猿がそれ以上の活躍を魅せると言う…w。

いやぁ、「忍」のこう言う活躍もの、楽しいなぁ。

軒猿の頭領(刑部)の強さもシビれます。

 


しかし江戸でも福井でも、結構な人数を引っ張り出しての大騒動。

こんなの繰り返してたら、あっちでもこっちでも改易の大騒動ですがな…って、時代小説なんだから野暮は言いっこなしです。

派手な立ち回りがあるから面白いんだし。

 


12巻(分断)は将軍・綱吉の意を汲んだ大久保加賀守忠朝の前田藩への攻撃のスタート。

政敵同士だった先祖(大久保忠隣・本多正信)の因縁が蘇り、加賀藩家老・本多政長が出馬します。

「コメディ担当?」と謎な活躍だった新武田二十四将のお笑い襲撃がここで活きてくるとは。

「いよいよ」

ってところで「以下、次巻」。

もう一冊持ってくるべきでした…。

 


<「武士は変わらねばならぬ。それを受け入れられぬ者は消えるしかない。儂も古くなった。なかなか合わせるのに苦労するようになった。近いうちに覚悟をせねばならぬやもな」>

 


…って、大久保加賀守の裏をかいた胸のすく活躍の後に言われても…な本多政長のセリフですが、色々仕事の仕方も常識も変わってきてる職場のことなんか考えると、ちょっと考えさせられたりもします。

 


ここからは<江戸編>で、まずは本多・大久保の対決…かな?

金沢の琴姫も気になるしなぁ。

さてさて、どうなりますやら。

 


#読書感想文

#百万石の留守居役

#上田秀人

アンハッピーエンドなのかどうかは…:読書録「おいしいごはんが食べられますように」

・おいしいごはんが食べられますように

著者:高瀬隼子 ナレーター:椎名ライカ

出版:講談社(audible版)

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「芥川賞」受賞作品。

早速audibleになってました。

仕事早いなぁ。

(通常速で4時間強。2倍速で2時間チョットでした)

 


埼玉にあるソコソコの規模の企業の支店。

それなりの成果を上げている営業社員・二谷

仕事ができる頑張り屋の女性社員・押尾

仕事はできなくて体も弱いが、みんなが守りたくなる女性社員・芦川

30代初めの3人の社員がメイン登場人物。

…というか、メインは二谷と押尾ですね。

章ごとに彼らの視点から物語が語られます。

二谷は三人称、押尾は一人称で。

 


護られる存在である芦川は仕事ができなくて、そのツケは周りの人間(特に押尾)に回ってくる。

二谷はそう言う芦川に苛立ちを覚えつつも彼女と付き合っている。

押尾は二谷と芦川の関係を知りながらも、二谷に親近感を覚えている。(だからって略奪愛に…って話でもない)

職場が忙しくなってくる中、周りの人に仕事を担ってもらうことの増えた芦川は職場に手作りのお菓子を作ってくるようになり、そのことが関係性を歪ませていく…と言うのが物語の展開です。

 


まあ、「二谷」が歪なんですよね。

彼は「おいしく食事ができない」。

それは彼自身が職場や自分自身の在り方に不満を覚えているからであり、にもかかわらずそこから出ていくことも、自分を変えることも、職場を変えることもできない。

その象徴が「芦川」に集約されてる感じもあります。

 


押尾の方は、職場に対して不満を持ちつつも、それなりにうまく合わせる処世術も身につけてるし、自分自身をコントロールすることもできる。

二谷の「歪さ」がある事件で噴出し、押尾はその影響を受けて一歩踏み出さざるを得なくなったんですが、それがなければ押尾はそれなりにこの会社でうまくやって行けただろうと思います。

ただ結果として踏み出した道は、彼女にとってはもっと望ましい生き方につながってはいるのですが。

 


会社経験がある人だったら、「あるある」じゃないかなぁ。

ここまでの「歪さ」が露わになることは珍しいだろうけど(だから小説になるw)、こう言う職場や、こういう社員の「立ち位置」「関係性」って言うのは珍しい話でもない。

その中でどうやって「自分」の居場所を見つけるのか?

…なんか、ちょっと気分悪くなっちゃうなw。

 


押尾は自分の道を歩き始め、二谷は「芦川」に、「職場」に、「社会」に取り込まれていく。

でもその先に二谷にとっての「居場所」がないとは言えないだろう、とも。

「おいしいごはん」が食べられるようになるかも…。

 


…それはまた、別のお話w。

 

 

 

#読書感想文

#おいしいごはんが食べられますように

#高瀬隼子

#audible

主人公たちの「距離感」が好きです:読書録「栞と嘘の季節」

・栞と嘘の季節

著者:米澤穂信

出版:集英社

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シリーズ第2作

1作目(本と鍵の季節)も読んでて、面白かった記憶もあるんですが、ストーリーはすっぽり…。

で、ネタバレサイトのお世話になっちゃいましたw。

まあ、1作目読んでなくても、ほとんど関係はないんですけどね。

 


作者の出世シリーズ「古典部」シリーズに比べると、本作の登場人物たちの人間関係はドライです。

都会(っていても八王子近辺だけどw)ってのもあるかな?

ただその「距離感」が僕には心地よかったです。

ちょっと「古典部」は近すぎる。

(それがアニメになると心地よくなるのが不思議w。アニメ「氷菓」は傑作です)

 


その「距離感」がリアルなのかどうかは、高校時代から40年(!)近く経っちゃってる僕にはなんとも言えないんですけどねぇ。

自分の子供たちみてると、もうチョイSNSやネットでの距離感は近いような気がいなくもないかなぁ。

それを標準としていいのかどうかも分かりませんがw。

 


でも登場人物たちが「切り札」を持ちたくなる気持ちは、なんとなく分からんでもない。

青春ミステリーなんだけど、「古典部」シリーズも、このシリーズも、彼らが抱える「悩み」や「闇」は軽いものじゃないです。

その仄めかしっぷりの距離感…も、好きかな。

また続編が出る頃にはストーリーは忘れちゃってるかもしれないけどw。

 


#読書感想文

#栞と嘘の季節

#米澤穂信

かなり「シャーロック」色が強くなってますw:映画評「エノーラ・ホームズの事件簿2」

ミリー・ボビー・ブラウン主演のホームズ・パスティーシュもの第2弾。

前作で事件を解決したシャーロック・ホームズの妹エノーラが探偵事務所を開設するが…と言うところから物語はスタート。

史実である女性労働者のストライキ運動を絡めつつ、女工の失踪事件をエノーラが追いかけます。

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前作でもフェミニズム的色彩の強い作品でしたが、本作でもその路線は変更なし。

まあベースにしてる史実が史実ですから。

ただ前作でも登場した侯爵とのロマンスもあって、ファイティングポーズ、ガチガチって感じでもないですけど。

 

女性解放運動を指導し、家族を捨てた母親

能力を活かし、<個>としての自立を確立しながら、孤独に囚われる兄

 

彼らからの「反省」を込めたアドバイスが、エノーラの選択に影響を与えている…って感じなのかな?

 

 


前作同様、「推理もの」と言うよりは「冒険譚」としての印象が強い展開。

マイクロフトが本作では登場しないので、その分、シャーロックの活躍が全面に強く出ています。

W主演と言ってもいいくらい。

「あの人」の登場(なかなか捻りが効いてます)もありますし。

僕はヘンリー・カヴィル好きなんで、いいんですけどねw。

 


第3作、ありますかね?

あってもいいし、なくてもいい。

ただこの路線を進めると、どんどん「シャーロック・ホームズ」の物語になっちゃうんじゃないかなぁ。

 

 

 

#映画感想文

#エノーラホームズの事件簿2

#Netflix

 

 

 

「魔法少女」の向こう側:アニメ評「リコリス・リリス」

個人的ジム・アニメ第2弾w。

この夏放映されてて、ネットで結構評判になってたアニメです。

エアロバイクしながら、快調に最後まで観ちゃいました。

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高い作画技術

キャラのレベルの高さ

ファッショナブルさ

レベルの高い銃アクションの演出

 


…あたりが「見どころ」でしょうか?

全体的にテンポが良いので、運動しながら観るのに適していますw。

 


パラレルワールド(?)の日本で、治安を乱す存在を密かに暗殺する「公的」組織。

その暗殺者を孤児である「女子高生」集団が担っている。

…という「トンデモ」設定。

あ、別の組織(リリベル)で、「男子校生」の暗殺集団もあるんだけどw。

 


まあ、「可愛い女子高生に銃アクションさせてみたい」ってのが発想の根本にあるとは思うんですが、キャラも設定も展開も「可愛い」だけに終わってないところが、ナカナカ。

「自分で自分のことは決める」

そんな裏テーマ(?)がある。

押し付けられた「正義」のために行動するんじゃなくてね。

リアル版「魔法少女」って感じでしょうか?

「リアル」とは言わんかw。

 


設定的には「ダーク」な方向に転がってもおかしくないところを、明るいトーンを維持したまま最後まで持ち込んだあたり、脚本の質も高い。

「それでええの?」

ってトコもあるけどねぇ。

 


さて、シーズン2。あるでしょうか?

評判良かったから、あるかもなぁ。

あったら観るかも。

 


#アニメ感想文

#リコリスリコイル