鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読み応えたっぷり。コロナ禍が終息した後の「検証」に向けての記録として重要な一冊であることは間違いないです。:読書録「分水嶺」

・分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議

著者:河合香織

出版:岩波書店

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昨年2月の専門家会議の発足から、7月の廃止までを取り上げた作品。

この時期のことは先に西浦先生が整理されてましたが(「新型コロナからいのちを守れ!」)、アドバイザリーボードのメンバーの視点、データ解析のプロからの視点から描かれた西浦作品に比べて、本書はより専門家会議のコアメンバー(尾身、脇田、押谷等)の視点を中心に描かれています。

厚労省を中心とした官僚、政府、自治体等の動きや意見も踏まえながら、専門家会議に寄り添い、できる限り作者自身の意見や思想を反映させない形で記録された内容は、事実に則していながら、実にドラマチック。

一気に読み上げてしまいました。

 

 

「分水嶺」

 

と言うのは、政府や官庁・行政の「アドバイス」役・「お墨付き」役ではなく、専門家としての知見を武器として、感染症対策の前面に出ることを「専門家会議」が選択したことを意味しています。

後の専門家会議の「卒論」でコメントされている「前のめり」と言うやつですね。

専門家会議はそう言う役回りを意識的に選択して走り続けてきたし、そのことは(僕自身の意見としては)日本のコロナ対策を何とかうまく回して来たと同時に、日本の統治機構の不全ぶりも浮き彫りにしてきたと思います。

「前のめり」かもしれない。

でもそれは必要なことだった、と。

 

 

感染対策については昨年の早い段階から大きな方向性は専門家たちの中では共有されていたことが本書を読むと改めて分かります。

そこから導き出される具体的な対策。

これも今に至るまで、本質的な部分は早い段階から見えていたことも(ポイントは「重症病床」であること等)。

 

 

ただ思ってた以上に日本の統治機構は柔軟に、素早く動くことができず、時に必要であってもその対策打つことが出来ない。

その苛立ちは専門家会議の会見や議事録を読んでいると実感もできていたことです。

そしてそれは、今までにない大きなウネリとなりつつある「第4波」を前にしても、残念ながら変わっていません。

 

 

そこに、

「経済」の破綻を懸念する政治の思惑

無謬性を捨て切れない政治家や官僚たち

長引く感染症対策に、苛立ち、言われなき批判や差別が表面化してくる社会の澱み

海外からの新たなウイルスの到来 etc,etc

 

専門家たちがせめぎ合ってたのは、ウイルスだけではなく、複雑な要素を孕んだ社会であり、人間であった…それが本書で描かれていることであるように思います。

そのことを尾身・脇田・押谷らはよく承知しており、だからこそ粘り強く戦ってこれたのだとも言えます。

いや、この立場に立たされたら、投げ出したくなりますよ、普通なら。

 

 

大阪では「医療崩壊」と言われる事態寸前のところにまで来ています。

ここまで来たら、「やるべきことをやる」しかない。

データ収集の仕組みの構築、データ共有のあり方の整理、PCR検査体制を含めた保健所の増強、病院の役割分担のあり方の整理、医療人材の確保と柔軟的な活用etc,

etc

必要なことだけど、今言っても仕方がない。

「ワクチン敗戦!」

とか騒いで、重症病床が増えるわけでもなし。(それでも医療従事者へのワクチンを高齢者への接種より早めることはできるはず)

 

 

ただ「見直す」時はやってくる。

その時、忘れてしまわないように、本書のような作品の意義はあると強く思います。

その最中で苦闘し、それでも自分の「やるべきこと」をやろうとした人々の姿を忘れないためにも。

 

 

…って、まだ全然終わってないんですけどね。コロナ対策。

尾身さんはまた、「前のめり」になってる感もあるし。

でもそうじゃないと、「第4波」は乗り切れない。

半年後、1年後に、本書の「続編」がどう描かれるのか。

残念ながら、それもまた求められることになりそうです。

 

 

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