鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

「今、起きていること」の構造的背景が見えてくるような一冊:読書録「新型コロナからいのちを守れ!」

・理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!

著者:西浦博 聞き手:川端裕人

出版:中央公論新社

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第3波の襲来

GoToキャンペーンとのミスマッチ

大阪での医療資源(重症病床数等)の枯渇

専門家チームからの積極的・矢継ぎ早なアクション

 


…現在進行形で起きていることの背景が理解できます。

 


作品としては、新型コロナウイルスの日本上陸から、緊急事態宣言の解除・専門家会議の解散までを、専門家会議で数値理論を担った西浦博先生の視点から語った作品なんですが、そこでの経験・そこから得た知見・反省…そう言ったことが、今また繰り返されているような…。

新規感染者数が日々更新され、大阪では重症病床の運用がギリギリとなって自衛隊の派遣まで要請される今、何気なく読み始めたら、一気に最後まで読まざるを得ませんでした。

西浦先生は、誠実で正直な方ですからね。

だからこその危機感と静かな迫力が行間から立ち上ってくるようでした。

 


僕自身は3月の時点から専門家会議の動きは重要だと思っていて、会見や資料等を結構フォローしていました。

だから専門家会議がどういう方向性を見ているかと言うのは、(素人なりですが)ある程度理解しているつもりだったんですが、それでもこれだけのことが背景にあったと言うのは、驚かされました。

 


専門家たちの熱意あふれ、ボランタリー精神に支えられたアクション

政権・行政と専門家たちの協力体制と、埋めきれない軋轢

 


前者については本当に頭が下がる思いですし、「専門家」と言うもののあるべき姿の一つを見る想いです。

 


後者の「軋轢」は、一言で言えば「経済と感染のバランスをどう取るか」。

政治の側が、「経済」をどうやって維持していくかに苦慮する中、ときに詐術的な動きさえも見せつつ、ポジショントークを繰り返す。

しかしそのスタンスが「忖度しないウイルス」によって覆され、追い詰められていく。

 


アベノマスクやらGoToやらは、その典型ですかね。

「経済を回す」ことと「感染対策を徹底する」ことのバランスを取り損ねて、今、日本は「第3波」に飲み込まれているわけです。

大阪に関しては、僕自身は打ち出してきた感染対策は「よくやってる」と思ってるんですが、それでもそこには「経済優先」の視点があって、ときに「専門家」の見解に対して疑義を申し立てるようなスタンスにそれが垣間見える(「緊急事態宣言は不要だったのではないか」といった発言等)。

 


西浦さんは「第3波」の前に語られた本書でその点を指摘しています。

そして結局、現状を見るに、そのバランスを欠いたスタンスが、医療資源の確保(特に人的資源)において後手を踏むことになってしまった…と言うことなのでしょう。

(それを僕は責めませんし、そのギリギリのところでも、吉村・松井両氏はよくやってると思います。

経済と感染を両立させると言う戦略に立つ以上は、このリスク(読み誤り)はあり得たことだとも思いますし。

しかしホント「思惑」なんか、感染対策には通用せんのやな…)

 


尾身さんが前面に立って危機感を露わにしているのは、2月の専門家会議の「踏み込み」に重なる姿です。

尾身さんと言う方は、ちゃんと「忖度」のできるw卓越した組織人と思いますが(こう言う人がいないと組織は動かせない)、同時に胆力のある優秀な「専門家」でもある。

「経済と感染対策を両立させる」という方針の下で、ある意味、政権の「御用」的な立場にもあった分科会がここまで危機感を打ち出してきていると言うことが、「今の危機」の深さを物語っているのかもしれません。

 


この「第3波」をどう乗り切るか。

もうこれは「やるべきことをやる」しかありません。

 


しかし「その先」どうするのか?

菅政権に求められるのは「専門家の使い方」を見直すこと。

特に「経済の専門家」ですね。(感染の方は、だいたい形ができてますからw)

「感染対策と経済を両立させるためには、どの程度の経済活動が容認されるのか。感染状況が変わってきたとき、その活動をどう変えていくのか」

これを「専門家」が数理的に打ち出していく必要がある。

そしてそれを見た上で、「政治」の方が<判断>をし、その<責任>を負う。

 


専門家会議の解散時に「卒論」として残された「提言」のなかにあったことではあるんですが、改めてここに立ち返るしかないでしょう。

それが西浦さんの提言でもあります。

ぶっちゃけ、「経済評論家」みたいな経済学者は、現時点では出番がないでしょう。(感染がおさまった後の経済政策においては、そういう視点も必要ですが)

 


本書は「今後の検証」のために書かれた作品だと思います。

でもその「記録」としての役割の前に、「今の指針」として役立てるべきと言うのが、僕の感想です。

いや、ほんと、緊張感のある、読み応えのある一冊です。

 

しかしまあ、やっぱり厄介なウイルスですね。

新型コロナウイルス。