・人新世の「資本論」
著者:斉藤幸平
出版:集英社新書
「脱成長」とか言われると、(作者自身が指摘するように)
「高度成長の恩恵だけをしっかり享受したくせに、<清貧>とか言って、貧乏を次世代に押し付けようとする老人たちの繰り言」
って感じがしなくもないんですがw、「気候変動」とか考えると、今のままの経済成長路線もどうかとも…。
ってなところから、マルクスに晩年期の思想(「資本論」(第1巻)の発表後)を補助線として、「ポスト資本主義」を考察した作品です。
作者は「1987年生まれ」。
こういう世代がこういう問題意識を持って声を上げるってのが「いいな」と。
どっちかっていうと、僕は「繰り言」世代に近いのでw。
僕なりの作者の問題意識をまとめると、こんな感じです。
・人類の活動は地球環境に不可逆的な影響を残すまでになっている(「人新世」という地質学的な定義はそのため))
・一方でグローバルな地域格差・国家格差・国民格差が広がっている
・環境への影響が破滅的にならないように、配分・再配分をする必要がある
・「資本主義」の枠組みではこの配分・再配分はうまくワークしない。新たな枠組みとしてマルクスの思想を借用し、「コミュニズム」を立ち上げる必要がある
無茶苦茶カンタンに整理してるんで、誤認・見落としは勘弁…ですがw。
その問題意識から提議される「脱成長コミュニズム」の柱は次の5つに整理されています。
①使用価値経済への転換
②労働時間の短縮
③画一的な分業の廃止
④生産過程の民主化
⑤エッセンシャル・ワークの重視
<コモン>の考え方とか、その一つとしての「協同組合」の評価とか、なかなか面白いなぁと思います。
実例として「バルセロナの市民会議」なんかの成果も引き合いに出して、決して「夢物語」ではないのだとコメントするあたりもいいですね。
<コモン>という考え方が地方自治の単位と馴染む(還元すれば、それ以上広げると無理が生じる)というのは確かだと思いますし、その「点」のグローバルな連帯っていうのは、「今っぽい」視点だと思います。
おっちゃん的に気になるのはこんなとこかな。
・「生産過程の民主化」は、熟議の民主主義にも通じる考え方だけど、(作者も認めるように)スピード感は落ちる。例えば「パンデミック対策」「巨大自然災害対応」なんかを想定すると、その「スピード感」こそが致命的になる可能性もある。
ここをどう考えるのか?
・<コモン>を管理する組織を「民主主義的管理・運営」に…というのは理念としては賛同するが、現場においては組織の運営に一定の官僚制度が必要となることは、組織の規模が大きくなれば不可欠(地方自治の規模でも)。
「官僚主義」の弊害をどう回避するのか?
・メンバーが完全に一致した意見で全て動くことはあり得ない。その中で生じる「同調圧力」あるいは「ポピュリズムによる扇動」「公共地のジレンマ」等を、どうやって現実的にコントロールしていくのか?
…なんか描いてると、「理想はわかるけど、現実はそうはいかんのよ」って<繰り言>っぽいなw。
僕としては「気にはなる」けど、それを踏まえながらも乗り越え、「理想」に向かって行動して欲しいってスタンスなんですが。
僕自身のスタンスは「技術の進展は現状の政治経済活動の不全を突破する可能性を持っている」というところです。
作者には強く批判されてますが。
ただまあ、「どういう路線に向かうべきか」は、少なくとも今の30代以下の世代で、究極的には選択すべきである、とも考えてます。
だってその先の「未来」を生きていくのは「彼ら」なんだから。
だからこういう「思想」が若い世代(僕が社会人になる前の年の生まれやもんw)から出てくるのは興味深い。
惜しむらくは、賛辞を寄せてるのがオッサンばっかり、ってとこかなw。(坂本龍一、白井聡、松岡正剛、水野和夫)