鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

壮大で、緻密で、雑なストーリーw。:読書録「三体Ⅱ 黒暗森林」

・三体Ⅱ 黒暗森林<上・下>

著者:劉慈欣 訳:大森望、立原透耶、上原かおり、泊功

出版:早川書房(Kindle版)

f:id:aso4045:20200902075132j:image


ファーストコンタクトを描いた前作を受け、400年かけて地球へ侵略してくる異星人(三体)への、200年をかけての「対抗戦略」が本作では描かれています。

直接的な異星人の「攻撃」よりも、その存在を受けての人類サイドのリアクションに焦点が置かれているのは、前作と同じですね。

 


読み始めてすぐに、「おっと、これは読み通せるかな?」と感じたのは以下のことがあって。

 


①「三体」のストーリーをほとんど覚えてない。

②中国名のキャラクターが覚えられない。

 


まあ、でもなんとかなりますw。

 


① →「三体」の意図と、「葉文潔」と「史強」のことを思い出せば、忘れてても特に問題はないw。

② →読み進めるうちに「なんとなく」分かるようになる。

 


アシモフや小松左京を連想させる「大風呂敷の広げっぷり」を存分に楽しむことができました。

読み終わった後にNetflixでのドラマ化のニュースを見ましたが、これまた楽しみです。

https://virtualgorillaplus.com/drama/netflix-the-three-body/

 

 

<以下、ネタバレを含みます。読む予定のある方は読まないで下さい>

 

f:id:aso4045:20200902075144j:image

 


本作のメインの骨格は、「三体人が400年後に攻めてきた時、どう対抗するか?」のシミュレーションにあります。

コミュニケーションが高すぎるために、逆に「言ってることと、考えてることの乖離を理解できない」三体人に対抗して、「対抗策を考える」存在として、4人の「面壁人」が選任され、この4人が考える対抗策と、三体人を信望する人類サイドの集団が選んだ「破壁人」とのせめぎ合い、そして200年にわたる歴史の流れの中での「人類」の変容が物語のメインストーリーとなっています。

終盤には壮大な宇宙戦(?)もあります。

 


非常に面白かったし、主人公以外の面壁人の戦略が崩壊していく流れもナカナカ読ませました。

主人公が「宇宙文明」の真実の姿(黒暗森林)を喝破し(それ自体は「葉文潔」が示唆したものなのですが)、それを逆手にとって「三体人」を脅し、結果的に共同関係を構築すると言う「どんでん返し」もお見事。

 


<「真実の宇宙は、ただひたすらに暗い」羅輯は手を伸ばし、ビロードを撫でるように暗闇を撫でた。「宇宙は暗黒の森だ。あらゆる文明は、猟銃を携えた狩人で、幽霊のようにひっそりと森の中に隠れている。そして、行く手をふさぐ木の枝をそっとかき分け、呼吸にさえ気を遣いながら、いっさい音をたてないように歩んでいる。そう、とにかく用心しなきゃならない。森のいたるところに、自分と同じく身を潜めた狩人がいるからね。もしほかの生命を発見したら、それがべつの狩人であろうと、天使であろうと悪魔であろうと、か弱い赤ん坊であろうとよぼよぼの老人であろうと、天女のような少女であろうと神のような男の子であろうと、できることはひとつしかない。すなわち、銃のひきがねを引いて、相手を消滅させること。この森では、地獄とは他者のことだ。みずからの存在を曝す生命はたちまち一掃されるという、永遠につづく脅威。これが宇宙文明の全体像だ。フェルミのパラドックスに対する答えでもある」>

 

 

 

個人的には面壁人に対抗する「破壁人」の動機にもうちょっと踏み込んで欲しかったかな。

文革によって人類への絶望を痛感した「葉文潔」の心情はすご〜くよく分かるのですが、「地球三体組織(ETO)」の破壁人たちは、それぞれ何を持って「人類の滅亡」を支持するようになったのか…。

ま、そんなこと書いてたら、もう1、2冊必要になっちゃうかもしれませんがw。

 


「黒暗森林」は実に陰鬱な宇宙の姿を描き出しています。(特に「猜疑連鎖」なんて…)

しかしこのシリーズはもう一冊ありますからね。

この陰鬱な世界で、次はどのような物語が展開されるのか。

そこに「希望」はあり得るのか。

 


う〜ん、早く読みたいなぁ。