鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

逃げ切り世代の挽歌…って雰囲気も:読書録「ワイルドサイドをほっつき歩け」

・ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち

著者:ブレイディみかこ

出版:筑摩書房

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「労働者階級の反乱」(光文社新書)で、

労働者階級のEU離脱への賛同は、「移民問題」よりも、緊縮財政が続いて社会福祉制度が貧弱化し、新自由主義のよって相対的に貧しくなったことへの「異議申し立て」の側面が強かった

…と言うことを、自分のパートナーを含めた身の回りのベビーブーマー世代のおっさんたちの姿から喝破した作者。

その後、傑作「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」で売れっ子作家に(多分)なってますが、本書は「労働者階級の反乱」で取り上げた「おっさん」たちの<その後>を収めた作品になっています。

 


まあ「労働者階級の〜」にも「ぼくはイエローで〜」にも共通することですが、作者の弱者に対する視線はすごく優しい。

その根本には緊縮財政によって社会的にも経済的にも労働者階級を追い詰めてきた政府やグローバリズムへの<怒り>もあって、ここらへん、ブレイディさんのパンクなリベラルぶりってのは徹底しています。

 


NHS(国民保健サービス)への労働者階級の思い入れや、緊縮財政と新自由主義的政策によって、NHSがズタズタにされている現状なんかは、日本の「国民皆保険制度」の今後を考える上で参考にもなります。

今回の新型コロナウイルス対策におけるイギリスの不手際は目立ってますが、「皆保険制度があるはずなのに…」と思ってたら、こんなことになってるんですね。

まあ、これは上手く回るはずもないと言うか…。

一方で今ひとつ定着しない日本の「かかりつけ医」制度ですが、その推進において考えなきゃいけないことが炙り出されているとも言えます。

コロナ対策では医療機関の機能分化の課題も指摘されていますから、いずれはここら辺も論点になってくると思いますが、簡単に考えちゃいけないなぁ、と。

 


本書で取り上げられる「おっさん/おばはん」の姿には哀しくも温かい気持ちになって、「いろいろあるけど、頑張りや〜」って気分にもなるんですが、本書の第二部に収められている「解説」を読むと、「う〜ん・・・」って考えさせられもしました。

 


第二部では「世代」「階級」「アルコール事情」等に関する現状を説明してくれています。

ここで取り上げられてる「おっさん/おばはん」たちは、確かに緊縮財政で苦労し、社会が変質していく姿を体感した世代ではあるんですが(いわゆる「ベビーブーマー世代」)、同時に経済成長に支えられてきた世代でもあるんですよね。

それだけに「過去」においては優遇もされているし(例えば「教育」)、経済成長に応じて「資産」も手にしています(土地・建物・年金)。

エピソードの中でも、パートナーとの別れや経済的破綻が描かれる一方で、(僕から見ても)優雅な「老後」を過ごしている人も描かれています。

これはその後の世代(ジェネレーションX、ジェネレーションY(ミレニアム世代)、ジェネレーションz(ポストミレニアム))にはないものです。

下の世代から見れば、「逃げ切り世代が何を贅沢な…」って気分になる可能性もあるかな、と。

実際、「Brexit」を巡っては、「離脱派」が多かったベビーブーマー世代と、「残留派」中心のミレニアム世代の間に論争と断絶が生じつつあることも指摘されています。

そう言う意味で「ちょっとセンチな気分にもなるエピソード集」で終わらせないところがブレイディさんの誠実なとこ…と言えるかもしれません。

 


さて、本書ではこの断絶をつなぐ役割として「ジェネレーションX」への期待に関しても言及されてます。

ジェネレーションX

「え?俺ら?」

まあ、日本と英国じゃ社会制度も違うし、経済的ポジションも違うので、期待される役割も違うとは思いますけどね〜。

(若干、日本の方が遅れ気味…僕らの世代はギリギリ「逃げ切り」はできそうもないけど、一定の優遇は享受した世代…になりますか)

 


ただこう言う「先行例」があるのは確か。

となれば、それを踏まえて「より良い制度」を組み上げることはできるんじゃないですかね。

「緊縮財政」にはやはり問題が多いし、「再配分」にはもっと配慮する必要がある(これはアメリカの現状にも言えることでしょう)

ただそのベースには「一定程度の経済成長」は必要でもあろうとは思います。

withコロナ、afterコロナにおいて日本がやるべきはここなんじゃないかなぁと。

 


FAXやPDFで資料送付してるようじゃ、どうにもなりませんぜ。