鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

題名はシニカルな意味合い:読書録「幸福な監視国家・中国」

・幸福な監視国家・中国

著者:梶谷懐、高口康太

出版:NHK出版新書

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題名を見て、

「中国で進んでいるITを駆使した社会統制のあり方を肯定的に捉えてる本かな?」

と思ったんですが、そこまでノー天気な作品じゃありませんでしたw。

むしろ現在中国で進んでいるIT監視体制の実態、その背景・効果を紹介しつつ、それが決して「ビッグブラザー」的ではないだけに、日本や他の諸国でも進んでいく可能性が高いことを指摘し、その課題・問題点に警鐘を鳴らす…という構成の著作です。

題名はある種の「皮肉」ですねw。


ただなぁ。

僕自身は読んでて、

「いや、でもコレは悪くないんじゃないの?」

と思っちゃったんですよね。

もちろん、そこにリスクがあることは分かりますよ。

権力サイドに監視されたり、誘導されたりするのは面白いことじゃない。

面白いことじゃないけど、みんな、これを望んでんじゃないの?


・あおり運転や運転ミスをしたドライバーへの社会的制裁

・幼児虐待をした両親や、それを見過ごした行政機関への批判

・いじめをした加害者・その親、見過ごしたり隠蔽した学校・教育委員会への批判

etc,etc


「批判」はされるべき事案も確かにあるけれども、リンチに近いようなネット上に振る舞い、そこから広がるワイドショー的メデイアのフォローを見ていると、すでにその萌芽はそこここにあるような…。

「なんとかしろ!」

でも今の法律や制度ではなかなか対処しきれないことへの苛立ちが高まっている。

 

だとすれば、、例えば「信用スコア」のようなものがあって、こうした行為やスタンスを取ろうとする個人・組織の行動が<自主的に>牽制され、矯正されて行くとすれば、今の日本社会はそれを受け入れるんじゃないかな、とか思ったりもします。


だって見たくないから。

悲惨な交通事故も、虐待される子供も、いじめに苦しむ生徒も。


<また近年では、日本の社会に限ってみても、テクノロジーがもたらす利便性に対し肯定的な人々が、中国におけるテクノロジーの社会実装の素早さや、そこから発生するビジネスの面白さに魅せられる、という現象があちこちで生じているように思います。>


はい。

それは「私」ですw。


本書は単に「中国の事例の紹介」にとどまらず、「公」をめぐる中国と西洋社会の感覚の差、その根本にある思想的・政治的な背景等にまで踏み込んで論じていて、考えさせられる内容となっています。

通勤電車で気軽に読もうと思ってて、途中でついて行きづらくなるくらいw。


中国社会と西洋社会。

「法治国家」として、当然「日本」は後者に近いポジション…と思われてますが、そう言って良いものかどうか…。

なんだかんだ言って、「水戸黄門」的展開好きで、「問題点を指摘するので、<誰か>が手を打つべき」的なスタンスがメディアにも個人にも染み付いていて、ネットやワイドショーでは「リンチ」まがいの振る舞いが花盛り。

個人や組織が自律的に<公>を意識した振る舞いをするよりも、「徳を体現した(と思わせる)お上」に「なんとかしてもらいたい」…そんな風に見えるんですよね。

(今の韓国との関係とか、米軍基地問題とか、福島原発対応とか、色々な局面で)


だったら日本も「幸福な監視社会」に…


…ってな思考回路になっちゃうのも、歳とったからかもね。

死んじゃう前に、手っ取り早く良い社会」になるとこ見たいからw。


それじゃいかんのだよな、と「自戒」しつつ、本書を読み終えました。

好著です。