・まちの本屋 知を編み、血を継ぎ、地を耕す
著者:田口幹人
出版:ポプラ文庫
ネット記事で、退職後の田口さん(現在は取次会社に勤務)の記事を読み、
「ああ、転職したんだ〜」
と意外な思いを覚えたところ、店頭で見かけたので購入。
単行本はまだ「書店員」時代。文庫化は退職後で、その点についてもしっかり追記されています。
僕はあのPOPはあんまり好きじゃないんですけどねw。
ちょっと押し付けがましい感じもあって。(週に2、3回は書店に行くので、余計感じるのかもしれません)
それでも、自分の興味の範囲外だった「面白本」を見つけるルートとしては、POPや独自帯なんかは結構参考になってる部分はあります。
(個人的には書店独自の特集棚の方が好きです)
作者は単にPOPを売りとして使っているわけではなく、地域のコミュニティに根ざした「本屋」として、中型・小型書店のあり方を模索し、その一環としてPOPを活用しています。
郷土本のコーナーのあり方、活用の仕方、外商による他業態交流やイベントの展開、書店員の教育、顧客とのコミュニケーションetc、etc
「ここまで考えて、ここまでやるんや」
と感心するとともに、
「ここまでやっても、届かないか」
という思いも。
作者自身は実家の書店経営も経験しており(倒産しちゃうんですが)、「経営」的な視点を強くお持ちです。
読む前はもっと「理想論」的な本かと思ってたんですが、いい意味で裏切られました。
「教育」「教養」ではなく、「今日行く」「今日用」だってあたり(今日行く場所、今日用をたす場所としての書店)、強く同感します。
書店にとって「教養」や「文化」の担い手であるってのは「当たり前」のことであって、殊更口にするようなことでもない、それを「実現」するためにどういうあり様・経営・運営をして行くのか。それが重要。
…ここら辺、少し前に見た「ニューヨーク公立図書館」にも通じるスタンスを感じました。
…それでも届かないんやなぁ。
退職しても元の書店(さわや書店)との関係は継続している様ですから、「追い出された」とかいうわけでもないんでしょうね。(作中には社長への尊敬の念もあります)
ただ経営的に曲がり角に来てしまった…という雰囲気は滲み出てます。
現場で変えて行くには力が足りなかった。だから一歩スタンスを変えて…というのが取次店へ転職した理由なのかもしれません。
(ここら辺、経営サイドの話も聞いてみたい気がします)
ただ一緒にやってた名物書店員も同時期に退職されてる様ですから、なかなか簡単には整理できないものがあったのかもしれないなぁ、と。
僕自身は「本屋」は大好きだし、暇があれば本屋に立ち寄ってます。
買う比率はAmazonと半々くらいかな。
ネット書店とリアル書店の「役割」という点では、僕は作者のスタンスに共感を覚えます。
覚えるけど、それじゃあ、届かない…。
作者が書店でやってたことは本当は「図書館」が担うべき役割なのかな、とも思います。
ただそのためには「予算」が課題となる。
そこをリアルに見つめ、政治との距離感も含めて対処しているのが「ニューヨーク公立図書館」。
武雄図書館の取り組み(蔦屋書店への委任)は批判的に取られることが多いけど、こういう現状を考えると、改めて検討してもいいんじゃないかなぁ。
「それは実情を知らんからだ」
っていわれるのかもしれませんがね。