・ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
著者:ブレイディみかこ
出版:新潮社
イギリスの労働者階級の中で生活している作者が、中学生になった自分の息子の学校生活や友人関係を通して、格差社会が広がっていくイギリスの「今」を切り取って見せてくれる作品。
この息子くんが実に実にイイんだよなぁ。
地域でトップクラスのカトリック小学校から、元は底辺校で今は中位校になってる公立中学に進学するんだけど、そこで人種差別やら、貧困やら、格差やら、ジェンダーやら何やらの問題にぶち当たり、それでも一歩ずつ前に進んでいく。
その姿から作者(母親)も色々なことを考え、学んでいくんだけど、まっすぐな視線で出来事を見つめ、傷つきながらも、曲がらない主人公の姿には胸を突かれることもシバシバ。
正直言って、元底辺校に進学することを少年が選択するのは、暗にではあっても母親(作者)の影響下にあってのことなんじゃないかと感じられて、ちょっと微妙な気分もあるんですけどね。でもイキイキと学園生活を送っている姿を見ると、「良かったかな」と。
ま、そうじゃなきゃ、こんなドラマも生まれないし。
(自分自身が中高一貫の私立に行き、子供たちも同じ道を歩んでいる僕には逆の意味での「モヤモヤ」もなきにしもあらず。
もちろん、その「選択」には根拠があるし、「押し付け」でもなかったとは思ってるんだけど)
連載はまだ続いているようですから、続編も期待できます。
子供を主人公にしたこういうエッセイって、難しいところはあるし、それはそれで仕方ないとは思います。(「岳物語」とか、「毎日かあさん」とか)
でももう少しくらいは楽しませて欲しいなぁ。
(貧しくて小さくなった制服を買い換えることができない少年にリサイクルの制服を渡したとき)
<「でも、どうして僕にくれるの?」
ティムは大きな緑色の瞳で息子を見ながら言った。
質問されているのは息子なのに、わたしのほうが彼の目に胸を射抜かれたような気分になって所在なく立っていると、息子が言った。
「友だちだから。君は僕の友だちだからだよ」
(中略)
玄関の脇の窓から、シルバーブロンドの小柄な少年が高台にある公営団地に向かって紙袋を揺らしながら坂道を登っていく後ろ姿が見えた。
途中、右手の甲でティムが両目を擦るような仕草をした。彼が同じことをもう一度繰り返したとき、息子がぽつりと言った。
「ティムも母ちゃんと一緒で花粉症なんだよね。晴れた日はつらそう」
(中略)
息子はいつまでも窓の脇に立ち、ガラスの向こうに小さくなっていく友人の姿を見送っていた。>