・水底の女
著者:レイモンド・チャンドラー 訳:村上春樹
出版:早川書房
出版は2017年12月。
発売されてすぐに購入して…1年半経って、ようやく読みましたw。
読み出したらすぐなんですけどねぇ。
これで村上春樹さんが訳したチャンドラーの長編7作を全部読み終えたことになります。
やっぱり読みやすいですよ、この訳は。
そして作品の持つ「時代性」というものが、村上訳の方が正しく反映されてるように思えますね。
女性たちの奔放さの表現とかね。
チャンドラーに関しては女性の表現が定型的…というのが定評だと思います。
まあ、その点は否めないw。
悪女、淫婦、クールビューティ、健気なワークガール…
如何にも「ハードボイルド」ではあります。(チャンドラーの表現からそういう人物像が定着していったってのもあるけど)
ただ見方を変えれば、彼女たちは「社会からの型ハメに抵抗した女性」とも言える。
その彼女たちへのチャンドラー=マーロウの視線は、意外に優しい。
どうしようもなく、殺人犯であったりもするんだけど、それでも彼女たちを彼は心底は断罪しない。
「大いなる眠り」の老将軍や、本書のキングズリーにもそういう視線があり、マーロウはそこに連帯意識を持ってるように見えます。
(テリー・レノックスはちょっと違うかな。魅力的で、強さと弱さを兼ね備えていながら、どこか倫理的に外れている彼には、ギャツビーに通じるものを感じます)
そこに「現代性を見る」…なんてことは余計なことかなw。
そんなこと考えなくても、十分魅力的で楽しめる作品たちですからね。
<こういうことを言うと、また一部の反感を買うかもしれないが、「ハードボイルド」という言葉(用語)、またそれが指し示す領域そのものが、今日にあってはもうそのリアリティーと有効性を徐々に失いつつあるのではないかと言う気がしないでもない。>(村上春樹。あとがきより)
そうかもね。
僕はしばらく読む気になれなかったのも、そういうところがあった…ってのは言い訳かもしれないけどw。
それでもなお、チャンドラーには読み返すだけの「何か」がある。
本作を読み終えて、しみじみとそう思います。
一巡したから、また機会を見て読んでみよ。
今度は一作目から?
いや、まずは「ロング・グッドバイ」をもう一回…かな?