・持たざる経営の虚実 日本企業の存亡を分ける正しい外部化・内部化とは?
著者:松岡真宏
出版:日本経済新聞出版社
「持たざる経営」が題名に挙げられてますが、焦点が当たっているのは「選択と集中」ですね。(その結果が「持たざる経営」ですが)
色々具体例を挙げながら、幅広く論じられていますが、僕から見たアウトラインはこんな感じでしょうか?
「バブル後の金融危機等への対応として、<選択と集中><持たざる経営>が意義を持ってた時期は確かにあった」
「しかしながら現在、それらは<新規事業>を生み出す弊害となっており、日本経済の足かせにすらなっている」
「そもそも<選択と集中>は<新規事業の排除>を意味していない(言い出しっぺのジャック・ウェルチ自身が1000もの新規事業を立ち上げている)。それが<本業回帰><本業専念>と捉えられているのは<誤訳>であり、日本の経営者の<言い訳>に使われているに過ぎない」
「ICTの発達・拡大によって、<取引コスト>は拡大している。そういう中で企業が成長して行くには、<取引コストを内部化する>という方向性も重要であり、そうしたM&A(境界統合型M&A)も視野に入れるべき」
「そういう形で事業が多角化された<コングロマリット>は、日本の市場規模を考えると、実は合理的である」
要は「選択と集中」を進め過ぎて(言い訳にして?)、事業拡大のアニマルスピリットを失ってきた日本企業(経営者)に対し、「シェア拡大」のためのM&Aではなく、業務の取引コストを削減する方向でのM&Aを選択肢として提示している作品です。
上記のアウトライン以外にも、
「<不確実性が高い事業>と<確実性が高い事業>は<外部化>に適している」
とか、
「フリーランスの今後のあり方(クリエイティブなフリーランスは取引コストが高いため厳しく、作業系のフリーランスは海外企業やAI・ロボットに取って代わられやすい)」
なんかは、示唆的で興味深かったですね。
僕自身は
「ICTの発展は取引コストを低下させる。従ってオープンイノベーションやアライアンスが進んでいく」
と単純に考えてたんですが、現場を振り返れば作者の指摘の通り。
むしろここらへんは<不確実性>をキーにしながら、<外部化><内部化>を判断して行くべき…という風に考えるべきなんでしょうね。
まあ、「リスクテイクする経営」について論じているので、「これをやれば上手く行く」って話でもない。
実際、挙げられてるZOZOなんかは、今は試行錯誤段階にあるようですし(失敗…とは言え
ないと思ってます)。
でも「リスクテイク<しない>経営」なんて、「経営」じゃないですわねw。
そういう観点からは、単なる「規模拡大」じゃない企業経営の多角化について整理された興味深い作品と思います。
(日本における中小企業の数の多さや、起業率率の分析のあたりは、単純な「アメリカに比べて起業が少ない!」って単純な話ではないって指摘もあって、面白いです。
もっとも「だから中小企業を守るべき」って結論じゃなくて、「企業規模を大きくして生産性を上げるべき」というアトキンソンさんや、「岩盤規制撤廃」を主張する原さんの論とも重なってきたりもするんですがね)