・東京の子
著者:藤井太洋
出版:角川書店(Kindle版)
「ハロー・ワールド」で描かれた「少し先の未来」が面白かった藤井太洋氏の新作。
<読書録:ハロー・ワールド>
http://aso4045.hatenablog.com/entry/2018/11/02/114530
東京オリンピック後の、デストピアじゃないけど、あまり明るくもない日本(東京)を舞台にして、また「少し先の未来」が描かれています。
「ハロー・ワールド」の主人公はITスキル・知識を持った人で、それを使って閉塞的な社会・環境から<自由>を手に入れるんですが、本作の主人公は「戸籍を買って」別人になりすましている若者。
デバイスやITサービスは活用してるけど、特にそこらへんに秀でているわけじゃなく、知恵と身体能力で「事件」に対処するという、ちょっとハードボイルド風の設定になります。
彼が身につけているのが「パルクール」というアクション技能で(もとはフランスの軍隊訓練から発祥したものとか)、これがなかなか魅力的かつ効果的に扱われてるのが、本書の特徴になりますかね。
<神業・世界のパルクール!>
でもって作品のテーマが「労働法制」w。
特区を使って、柔軟性に欠けた「解雇規制」を白紙とし、グローバルスタンダードに合致した労働契約の確立と、それを活用した新たな教育・産業体制の確立を目指す人物・組織が描かれています。
割と旧来メディアのノリだと、
「そこに実は巨悪の陰謀が…」
って感じになるんですが、そういう風にもっていかない(むしろ胡散臭さは、それに反発する勢力の方にある)あたりが「藤井太洋」っぽいですかね。
まあ、ここら辺はいろんな意見があるだろうし、僕も決してこの登場人物(三橋)の言うことが正しいとは思っていません。
ただ現在の産業構造の変化、それに対する教育のあり方、そこに必要とされるコスト等々のことを考えた時、
「新自由主義が~!」
とか言ってても、仕方がないなぁとは思うんですよね。
如何にして「分配」と「効用」をバランスさせ、社会を良くしていく制度を考えていくべきか?
少なくとも、この作品で打ち出されている「未来感」は、僕は悪くないと感じます。
(僕自身はもう、それぞれの「個人」や「組織」がそれぞれ戦略的に考えて動くしかないとは思っていますが)
作品としてはそこに「解」を見出すことはなく、最後は「パルクール」によって主人公が<アイデンティティ>を取り戻すところで終わるんですが(ある意味図式的かもw)、僕は結構このラストは好きです。
(題名は「東京の子」ですが、これは「トウキョウ・ニッパー」の方が良かったとは思います)
藤井さんには他にも近未来小説があるんですよね。
遡って読んでみるかな~。