鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

デストピアではない「少し先の未来」:読書録「東京の子」

・東京の子

著者:藤井太洋

出版:角川書店(Kindle版)

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「ハロー・ワールド」で描かれた「少し先の未来」が面白かった藤井太洋氏の新作。

<読書録:ハロー・ワールド>

http://aso4045.hatenablog.com/entry/2018/11/02/114530

東京オリンピック後の、デストピアじゃないけど、あまり明るくもない日本(東京)を舞台にして、また「少し先の未来」が描かれています。


「ハロー・ワールド」の主人公はITスキル・知識を持った人で、それを使って閉塞的な社会・環境から<自由>を手に入れるんですが、本作の主人公は「戸籍を買って」別人になりすましている若者。

デバイスやITサービスは活用してるけど、特にそこらへんに秀でているわけじゃなく、知恵と身体能力で「事件」に対処するという、ちょっとハードボイルド風の設定になります。

彼が身につけているのが「パルクール」というアクション技能で(もとはフランスの軍隊訓練から発祥したものとか)、これがなかなか魅力的かつ効果的に扱われてるのが、本書の特徴になりますかね。

<神業・世界のパルクール!>

http://youtu.be/TQyS8ZqhF_U


でもって作品のテーマが「労働法制」w。

特区を使って、柔軟性に欠けた「解雇規制」を白紙とし、グローバルスタンダードに合致した労働契約の確立と、それを活用した新たな教育・産業体制の確立を目指す人物・組織が描かれています。

割と旧来メディアのノリだと、

「そこに実は巨悪の陰謀が…」

って感じになるんですが、そういう風にもっていかない(むしろ胡散臭さは、それに反発する勢力の方にある)あたりが「藤井太洋」っぽいですかね。


まあ、ここら辺はいろんな意見があるだろうし、僕も決してこの登場人物(三橋)の言うことが正しいとは思っていません。

ただ現在の産業構造の変化、それに対する教育のあり方、そこに必要とされるコスト等々のことを考えた時、

「新自由主義が~!」

とか言ってても、仕方がないなぁとは思うんですよね。

如何にして「分配」と「効用」をバランスさせ、社会を良くしていく制度を考えていくべきか?

少なくとも、この作品で打ち出されている「未来感」は、僕は悪くないと感じます。

(僕自身はもう、それぞれの「個人」や「組織」がそれぞれ戦略的に考えて動くしかないとは思っていますが)


作品としてはそこに「解」を見出すことはなく、最後は「パルクール」によって主人公が<アイデンティティ>を取り戻すところで終わるんですが(ある意味図式的かもw)、僕は結構このラストは好きです。

(題名は「東京の子」ですが、これは「トウキョウ・ニッパー」の方が良かったとは思います)


藤井さんには他にも近未来小説があるんですよね。

遡って読んでみるかな~。