鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

「生産性」を論じるなら読んどくべき:読書録「新・生産性立国論」

・新・生産性立国論   人口減少で「経済の常識」が根本から変わった

著者:デービッド・アトキンソン

出版:東洋経済新報社(Kindle版)

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「生産性」に関しては今までは伊賀雅代さんの「生産性」を第一に、

http://aso4045.hatenablog.com/entry/20161202/1480678004

アトキンソンさんの「新所得倍増計画」をその次に考えてたんですが、

http://aso4045.hatenablog.com/entry/20161216/1481890523

本書はその上を行きますね、。「生産性」を考える上において筆頭に挙げるべき「必読書」と言ってもいいと思います。

 

ポイントはこんな感じかな。

 

1.「生産性」について
生産性を向上する:同じ労力でパイを大きくする
効率を上げる:同じ業務を少ない労力で行う
「生産性」の定義(GDP/人口or生産労働者数)をしっかりと整理し、その意味を丁寧に説明していただいているとともに「生産性」と「効率」の違いを整理してくれています。
これって「当たり前」なんですけど、現場(経営も含め)だと混同しがちなんですよね。
基本的にと労働者ができるのは「効率性の向上」。その成果をいかに「パイの拡大」に回すかというのは企業戦略の問題であり、それは経営者の責任。
(個別には言い切れない局面もありますが)クレバーな整理だし、「そうだよな~」と思います。

 

2.日本の現状の分析:「人口減少時代」のインパクト
日本の戦後の経済成長が「人口ボーナス」によるものであり、「日本的経営」の成果ではない…という点を数字と歴史から証明し、その歯車が逆転した時の<悪夢>を、やはり数字と他国の歴史等から推測しています。
ここは「恐ろしい」話。
でも反論はできない…というのが僕の感想。

 

3.日本の経営者「無能」論
「1」にも通じるところですが、「生産性向上」に着手せず、安易な方向(人件費を中心としたコスト圧縮による「利益」出し)に対してかなり厳しい評価を下しています。その「無能さ」が、「失われた25年」を招き、日本の社会保障制度等の改革を先延ばしにさせ、「未来」の選択肢を狭めている…とまあ、ケチョンケチョン。

 

<世界に誇れる優秀な労働者がいるにもかかわらず、この体たらくはいったいどういうことなのでしょう。この体たらくを招いた責任は、ひとえに日本の経営者にあります。彼らの無能っぷりは、もはや奇跡的としか言いようがありません。>

 

<日本の戦後の経営戦略は、人口が大きく増え続けて経済が右肩上がりに成長していた時代に確立されたものです。この戦略は、人口が増加することを前提にしており、人口が増えないと機能しないものでした。しかし、1990年代から人口増加が止まると、その当時の経営者たちは事の重大さを理解せず、変えないといけなかった昔ながらの戦略を継続させてしまいました。その結果、経営者がデフレを起こして、失われた25年と言われる不毛の時代をつくり出してしまった。これが、日本経済がここまで衰退してしまった経緯です。労働者の問題ではなく、国策と経営者のミスが日本に不幸をもたらしたのです。>

 

<付加価値を増やさなかったのに利益を増やした会社は、従業員の給料を削って、それを利益に変え、配当として外資系の機関投資家に渡しています。これを「悪質な経営者」と言わずに何と言いましょう。そこまで考えずに、悪気なく応えてしまった経営者もいるかもしれません。しかし冷静に考えると、文字通りの「売国行為」をしてしまったと評価されてもしかたがないはずです。>

 

何ともまあ…。
さてこれを経営者サイドはどう見ますか…。

 

4.アベノミクスの限界
<消費者が減っている日本では、構造的に需要が減少していますので、潜在的にもインフレ圧力はかかっていません。生産性向上政策を実施しておらず、経済トレンド自体が下がっていますので、この状況で量的緩和をしても、トレンドラインに戻すことがせいぜいで、インフレにならないのは当然です>

 

<アベノミクスの「第一の矢」と「第二の矢」は国主導で完結しますが、「第三の矢」は民間企業を動かさなくてはなりません。ここができていないのが、アベノミクスが「思ったような」効果を出せていない最大の理由です。>

 

これは賛成。
一方で「生産性向上」(働き方改革)への流れを作っている点でも安倍政権は評価できるんだけど…。ここに来てのゴタゴタはなぁ。
作者も指摘する通り、かなり「厳しい政策判断」が必要なだけに、政府の強い姿勢が必要。
それがこうも「脇あま」では、う~ん…。

 

5.では、日本が取るべき政策は?
挙げられている政策は以下。


(1)企業数の削減
(2)最低賃金の段階的な引き上げ
(3)女性の活躍
「(1)」なんかは、作者は「半減」とも口に出してて「え?」って感じなんですが、読んでみると「なるほどなぁ」。
「1971年の企業数は141万社。現在は352万社」
なんかは知りませんでしたし。
「(2)」も「(3)」もいろんな意見はあるところでしょうが、作者はファクトを持ってその必要性を説いています。感覚論でこれに反発しても、それは「無能論」に通じる仕立てですw。
ここら辺は本当に政府の「旗振り」から税制も含めた政策による後押しが無茶苦茶必要なんですが、それだけに安倍政権が…ってのは先に書いた通り。

 

6.企業が生産性を上げるには?

挙げられているのは以下。

 

<5つのドライバー>

(1)設備投資を含めた資本の増強

(2)技術革新

(3)労働者のスキルアップ

(4)新規参入

(5)競争

 

<12のステップ>

(1)リーダーシップ

(2)社員一人ひとりの協力を得る

(3)継続的な社員研修の徹底

(4)組織の変更

(5)生産性向上のための新しい技術に投資

(6)生産性目標の設定と進捗

(7)セールスやマーケティングも巻き込むべき

(8)コアプロセスの改善

(9)Knowledge Management (知識管理)

(10)生産性向上の進捗を徹底的に追求する

(11)効率よく実行する

(12)報・連・相の徹底

 

整理されてるし、アクションの方向性は間違いなくこうでしょう。それでも本書で論じられているのは「原則論」。
個々の企業や労働者が「具体的に何をするべきか」については詳しく書かれていません。
…が、まあここは、
「自分で考えなさい」
ってことでしょうな。
それができないから「無能」って言ってるんだしw。

 

しかし人口減少時代における「労働集約産業」の在り方を考えると、難しいなぁと思いますよ。
ここら辺の先行例としては「ヤマト運輸」になるんでしょうが、「効率性」を高めつつ、「パイ」を広げるための「値上げ」を実施しているわけですが、その根本には宅配業務の「付加価値の高さ」がありますからね。
結局のところ「付加価値を高めていく」ということが最大のポイントであり、その実現のために「効率化」をすすめ、「生産性を向上させる」(労働者一人当たりのパイを継続的に大きくしていく)ということ。
だからこその「経営戦略」。
難しい時代になってるよなぁと思いますし、その速度は日増しに速まってる印象もあります。
でもそのことに文句言っても仕方ないんですよね。

 

経営者の皆さん。
ぜひとも本書を一読し、自らを省みてくださいw。