鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

経済政策への意義申し立てだったと言う見立て:

・労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱
著者:ブレイディみかこ
出版:光文社新書(Kindle版)

労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱 (光文社新書)

労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱 (光文社新書)

 

 

トランプ政権の発足と並んで英国のEU離脱は結構衝撃的なニュースでした。

「民主主義は最悪の政治形態である。他の政治形態を除いて」

とか言うのがチャーチルの言葉ですが、その民主主義の本山である英国までもがポピュリズムの嵐に見舞われたのか、と言うのが正直な僕の感想でした。


英国の労働者階級の白人男性と結婚し20年前から一緒に住んでいる作者にとっても、この投票結果は衝撃だったようです。作者の夫もまた、EU離脱に投票してるわけですからね。
今まで移民に対しても寛容であったと思ってた人々が裏では差別主義者的な本心を持っていたのか。

 

<本書は、英国在住のライターが、EU離脱投票で起きたことを契機として、配偶者を含めた自分を取り巻く労働者階級の人々のことを理解するために、真面目に勉強したことを覚書と言える。>

 

どうやらEU離脱投票後もゴタゴタしている英国の状況何かをなんとなく横目で見ながら、果たして一体そこら辺に何があるのかと言うのが知りたくて、本書を読んでみました。

 

結論から言うと、確かに移民に対する反感もあるようですが、それ以上にメインとなるのはサッチャー以降の新自由主義、金融機構の緊縮財政等の経済政策によって生活基盤が破壊された労働者層の反乱…と言うのが言う離脱投票の主因である、ということのようです。
昨年6月にあった総選挙で、圧勝を目指した保守党が、過半数を割り込む惨敗をしてしまったと言うあたりがその裏付けにもなっています。

 

本書では英国の階級社会を背景とした労働者層と上流・中流層との100年にわたる歴史をまとめてくれているのですが、これなんかを読むと政権の経済政策によって追い詰められていく労働者階級の姿というのがよくわかります。


ゆりかごから墓場まで…その福祉政策のつけで英国病にかかった後、サッチャーの大胆な新自由政策によって復活。ブレア政権にも引き継がれる新自由主義政策の遂行により金融セクターとしてのロンドンの繁栄等をもたらした。


ある側面から見ればこれは正しい見方なんでしょうが、英国の労働者階級層から見れば、自己責任・自助努力の言葉の下に、セーフティーネットがどんどん削られていき、階級格差の拡大と固定が決定的になっていた過程でもあるわけです。
ここに至っての意義申し立てが、今回のEU離脱への労働者階級層の投票である…と言う流れです。

 

本書の読み所の1つは、この100年の歴史だと思います。
「いつか来た道」「これから辿る道」
まぁ、そんな感じで日本の政治における経済政策の方向性について、改めて考えさせられます。生活保護世帯への厳しい視線とか、女性労働者に対する差別とか、イギリスが経験した歴史に今の日本の現状にも見るような思いです。
そこら辺の裏に富裕層の策略のようなものを感じさせるのは、作者が労働者階級の配偶者を持っているという点から出てくるバイアスかもしれませんがねw。たとえそうでも、耳を傾けるべき点は十分にあると僕は思います。

 

本書で語られる労働者階級の姿には、政治に対する無気力感ではなく、何かを変えることができると言う強い意志を持った人々と言う印象があります。

 

<彼らはやるときにはやってしまう人たちなのだ。>

 

いやはや、まさにw。

 

そこら辺は、作者が個人的に身の回りの人々に行ったインタビューの中にも伺い知れて、なかなか興味深いです。

 

<ーじゃぁ、彼らがいつか保守党を支持するようになったとしてもしょうがない?
「いいや。そりゃもう親子の縁を切る時だ」>

 

<「それならそれですべての外国人に対して平等な方法で制限しないと、ジョン・レノンのいうラブ& ピースじゃないんじゃねえのか」
ーあれ?ジョン・レノン好きだったっけ?
「嫌いだよ。あいつは偽善者だった」>

 

言うべき事は言う。自分の主張はしっかりと持つ。
読んでて、ちょっと爽快な気持ちにもなりました。自分の親がこうだったらちょっとめんどくさそうではありますがねw。

 

個人的には、結構今回の英国のEU離脱に関する動きについては納得のいく説明を読ませてもらった思いがあります。


事態はもう次の段階に移っていて、労働党の復活が焦点となっている段階のようです。それを支えるのが若者たち。
本書で描かれる労働者階級は、どちらかと言うと僕よりも上の世代の層なので、これからを担う若者たちがどういう考えを持っているのか、そこら辺が知りたいなとも思いました。

 

まぁ、それは本書の役割じゃないんですけどねw。