鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

基本的には賛成:読書録「世界一子どもを育てやすい国にしよう」

・世界一子どもを育てやすい国しよう
著者:出口治明駒崎弘樹
出版:ウェッジ

世界一子どもを育てやすい国にしよう

世界一子どもを育てやすい国にしよう


人口減少・少子高齢化が日本の将来にとって最大の課題であることは間違いありません。当面の間は生産性向上や女性の活躍推進等でしのいで行くとして、根本的には出生率を上げていく必要があります。
そういう観点から言えば本書の主張については基本的に賛成です。


高度成長期が終わり、右肩上がりで経済が成長していく時代が過ぎ去った以上、国の予算には限りがあります。予算が増えている時代なら、基本的には前年の予算を維持して、増えた分をどこに配分するかと言う感覚で対応することができます。
損したところはなくて、どこでどれだけ得をするか、今回は見送られても次に期待しよう…まぁそういう感じです。
なんとなくまだそんな向きが残っているような気がしますが、そういう時代はもう過ぎ去っています。
「足りない」と主張するだけではなく、全体を見ながら大きな方向性を定め、それに基づいて優先順位を立てて、予算を配分していく必要があります。
その優先順位の第一が、「子供を育てやすい」環境と言うところにあると言う点に、僕は賛同します。
そのためには予算を削られるところもあれば、施策や政策をあきらめなければならないところも出てくるでしょう。
既得権益との戦いがだからこそ重要になります。
(僕も含め)やっぱり今の立場を失いたくないですからね。
でもそれじゃあ、僕たちの子供には希望のある社会は残すことができない。本書の問題意識はそこにあり、僕も同感です。
本書にはいろいろなデータも紹介されていますから、ここら辺のことを事実とデータに基づいて整理するにはいい本なんじゃないかと思います。


ちょっと気になったのは駒崎さんが、民主主義に対して若干疑念を持っているところかな。
投票率や、世代の構成何かを考えると、子育てに予算を回す政策判断は難しい。


<民主主義は、消極的選択ではベストだ、と言うことですよね。僕も同意見です。歴史上の政治よりマシだと言うことで選んでいる。
でもそれは、人口ピラミッドが三角形で、中長期的な投資の合理性を理解している層がマジョリティだったときの話ですよね。短期合理的な決断をしがちな高齢社会においては、どこかに中長期的な投資を優先させる「非民主的メカニズム」を組み込まないといけないのではないでしょうか。要するに、民主主義をアップデートしないと、と思うんですよ。>


本書では、極めて常識人であるw出口氏が丁寧に話をして、最終的には子育て世代以外の層も巻き込んだ社会的な合意形成を取り付けていく方法を模索するという結論になっていますが、非民主的メカニズムを期待してしまう気持ちもわかると言えばわかるんですよ。
でも同時にそのリスクも僕は強く懸念します。そもそも戦前の軍国主義だって、そういうところからスタートしているとも言えますからね。


社会的な合意形成を行っていくと言う事は非常に難しい。
これはもう、昨今のいろんなことを考えてもすぐに思い当たることです。
世界的には中国は今そのステップを踏みつつあり、民主主義に対する1つの挑戦を突きつけていますが、僕自身はそれが成功するとは思えないし、それが成功した社会が良い社会だとも思いません。
それでも現実の既得権益層の強力な反対と、社会の無関心に直面した時、そういう方向性を期待してしまう人々が一定程度出てくる事は可能性としては否定できないと思います。
そういうリスクに直面しているのが「現代」とも言えるでしょう。


駒崎さんと言う方は非常にクレバーな方だと言う印象がありますが、それでも「非民主的メカニズム」と言う点に言及すると言うのは、僕にはちょっとした驚きであり、不安を掻き立てられもしました。
一方で、社会的にも政治的、「今のままではいけない」「未来へ向けて社会のあり方を変えていかなければならない」といった動きが出てきてされることも確かだと思います。(女性の活躍推進とか、働き方改革とか)
そういう動きをネガティブに捉えていくことも可能だと思いますし、僕自身も実際いろいろ思うところはあります。
それでもそういう流れの中から社会的な合意形成をなんとか取り、子どもが育てやすい国に日本が変わっていくことを期待したいと思いますし、僕もそれに何らかの形で参画していきたいと考えています。