鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

撤退戦の実際:読書録「縮小ニッポンの衝撃」

・縮小ニッポンの衝撃
著者:NHKスペシャル取材班
出版:講談社現代新書


人口減少局面に入った日本。
急速に人口が減ることの影響は、「一極集中」である東京すら例外ではない。
最大のポイントは「行政サービス」の維持であるが、税収の大幅な増加が見込まれない中、現状の規模での維持は困難な地域が多く、そのためには優先順位と取捨選択、さらには行政の対象とするエリアへの集約化(コンパクトシティ)への取り組みが急務である。


…っていうのは、本書に限らず、多くの本(最近読んだのだと「未来の年表」とか)で指摘されていること。
本書はそういう分析・解説・理念にとどまらず、実際に人口減少対策に臨んでいる自治体の取り組みを具体的に取り上げ、その「撤退戦」の実際を紹介してくれています。


「東京」が例外ではないことの例として「豊島区」。
その現実が迫りつつある例として首都圏の「横須賀市」。
財政破綻によって如何に行政サービスの維持が困難なるかを「夕張市」に窺い、
行政サービスの縮小・優先順位づけ対策としての「住民組織」の組成と運営について「雲南市」「益田市」「京丹後市」を紹介しています。


一番の読みどころは「住民組織」ですかね。
「夕張」のような状況に陥らないようにするため、その前段階で「行政サービス」を絞る。
しかしその優先順位づけや運営を自治体が行うのは抵抗が強く、財政的にも困難なため、地元住民に委任することによって、現地の実態に沿った「行政サービス」の集約を行う。
その運営主体が「住民組織」というわけです。


ただこれは多分、「表向き」。
すでに本書でもし指摘されていますが、先進的な地域(雲南市)でさえ、「住民組織」は岐路に立ちつつあります。
原因は「高齢化」。
考えてみれば当然で、「住民組織」による行政サービスのスリム化が行われる地域は、もともと高齢化が進んでいる地域。勢い、その組織運営を担うのも「高齢者」が中心になり、やがては担い手のさらなる高齢化が進んでいくことになります。
ここで若年世代の流入が目覚ましく実現するには「人口減少」の現実は重すぎるでしょう。


じゃあ、何のために「住民組織」は推進拡大されているのか?
行政サービスを維持するために最も重要なのは、サービスが維持できるサイズへの居住地域の「集約化」なのは間違いないでしょう。しかしそれを自治体が推進するには住民の抵抗が大きすぎる。ことは「財産権」「居住権」にも関わるだけに、強制的な執行も極めてハードルが高い。
そこでまず「住民組織」に行政サービスを担わせることで、住民自身に「行政サービスの維持」の困難さを身をもって認識させる。
それを踏まえた上で、「居住地域の集約化」を住民自身に考えさせ、判断させる。(場合によっては地域住民による「同調圧力」さえ利用しながら)
…「住民組織」の拡大にはそういう意図があるのではないか?
これが僕の「邪推」です。


ただその「邪推」を僕は非難することはできません。
その向こうには「夕張」の姿があります。
「当たり前」だと思っていた「行政サービス」が、「当たり前」じゃなくなる。
今後の人口趨勢や経済環境を考えると、これは「夕張」だけの特殊事情ではありません。
「東京」すら含めた、「日本の将来像」がここにはあるのです。それを考えると…。


もちろん、他にもやるべきことはありますよ。
生産性の向上による経済力の向上は絶対に必要。そのためのイノベーション規制緩和は「待った無し」でしょう。
「自動運転車」の開発、「IT」や「ドローン」の活用なんかも、福祉機能の維持という観点からも推進すべきと思います。
「移民」すら検討課題として俎上に乗せるべきでしょう。
これらのことをスピード感をあげながら取り組み、実現していくことで人口減少のインパクトを薄めつつ、そこでえた「時間」を最大限活用して、行政サービスの集約化を進めていく。
…これが現状取るべき途なのではないか、と。


現政権も、ここは理解していると思います。
ただスピード感と、政治資本の投入の優先順位が…。
森友とか加計とか、ホントに手をつけるべきことだったのかどうか、です。
報道を見てて、一番苛立つのは、ここなんですよねぇ。