鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

アルファ碁の向こう側:読書録「盤上の夜」

・盤上の夜
著者:宮内悠介
出版:創元SF文庫

盤上の夜 (創元SF文庫)

盤上の夜 (創元SF文庫)


評判は聞いてたんですが、一時期SFから遠ざかってたもので、なんとなくスルー。
最近個人的に「SFモード」が入ってるんで、手にとってみました。
…これはナカナカ読み応えのある…。


囲碁、チェッカー、麻雀、チャトランガ、将棋、そして再び囲碁
ボードゲームを題材とした短篇集で、最終話でゆるい連作的な構図を作り出しています。
「SF」ではあるんでしょうが(それ「らしき」ネタが振られているところもあります)、「ボードゲーム」に対峙する人間の「あり方」をテーマとした作品群…って感じの方が強く出ています。
(こう言う場合、「盤上を通じて神と対峙する」という展開になりがちで、本作でもその傾向は結構あります。その裏付けとして、AIやら量子コンピュータやらが出てくるあたりがSF?w)


第2篇(「人間の王」)では実在のチェッカー(マリオン・ティンズリー)を取り上げ、「完全解に至ったチェッカー」の「史実」をベースに、それでもボードゲームに向かう「人間」と言う存在についてストーリー展開しています。
ここら辺、AIに敗北を喫した将棋界・囲碁界を先取りするような…。
本作を書いた時点で、多分作者は囲碁のAIへの敗北は、もう少し先と読んでたんでしょうが、「現実」が小説に追いついてきている、まさに「現在」の指数関数的なスピード感も感じました。
(ティンズリーに関しては途中までフィクションかと思ってたら読んでました。ふと気になって調べたら、「史実」。ちゃんとSF仕立てになってるんですが、物語としては「事実は小説よりも奇なり」を地でいくような話でした)


本格派SFという印象はないけど、「物語巧者」を強く印象付ける短篇集であったのは確か。
こりゃ、他も読んでみんといかんなぁ…。