鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

番組とちょっと印象が違ってた:読書録「欲望の資本主義」

・欲望の資本主義 ルールが変わる時
著者:丸山俊一、NHK「欲望の資本主義」制作班
出版:東洋経済新報社

欲望の資本主義

欲望の資本主義


BSで一月の放映された「欲望の資本主義2017」を見る機会があって、「なかなか面白いな」と思ったところに書店で本書を発見。早速購入しました。
番組自体は色々な人のインタビューを編集して、シャッフルするような感じでテンポを作りつつ、方向性を打ち出してたんですが、本書はその中でも「核」となっていた三人のインタビューをじっくりとまとめて読ませてくれています。
個人的には原丈人さんの話も面白かったんですが、まあチョイスするならこの三人ですかね。


ジョセフ・スティグリッツは(ノーベル賞受賞者に何ですが)決して「王道」の経済学者ではないでしょうが、それでもオーセンティックな立場からのチョイスでしょう。現状の世界経済・各国の経済政策に批判を加えながらも、地球温暖化対策・インフラ・教育・テクノロジーなどの投資対象はまだあり、「成長は可能」とのスタンス。
どこまで本気で取り入れているのかはともかく、「アベノミクス」の思想的支柱の一つではあるでしょう。
(「不平等の拡大」に警鐘を鳴らしてるあたりが、「王道」足りえない理由?w)


トーマス・セドラチェックは社会主義が崩壊したチェコの大統領経済アドバイザーを24歳で勤めたという異才。
イデオロギーの劇的転換」を体験した立場から、経済学だけにとどまらない思考の展開をし、その結果を「善と悪の経済学」という本にまとめているそうです(これは「読んでみたい」と思ってるとこ)。
「成長はいいときはいいけど、環境が悪いときは無理して求めるものではない。成長を目的化した成長資本主義によって債務が積み上がるのは危険」…というスタンスかな。
多分、スタッフが最も「核」としたい考え方を表明しているのが彼でしょう。対談も追加で収録されているしw。


三人目のスコット・スタンフォードは、ゴールドマン・サックス出身のベンチャー投資家。早い段階からのUberへの投資で名を馳せたようです(知りませんでしたw)。
彼のスタンスは「リターンが全て」。
「成長」の善悪などは「自分が考えることじゃない」って感じです。


番組を見てると、確かにセドラチェックの主張に惹かれるのですが(人も良さそうですしw)、今回まとまったインタビューを読んで意外だったのは、結構スタンフォード氏の話が「面白いな」と思えたこと。
もちろんスティグリッツやセドラチェックの言ってることも「まあ、そうだよな」とは思うんですが、なんか「ワクワク感」がないんですよね。
そこら辺がスタンフォードの話しっぷりには感じられます。


<今起こりつつあることは、経済に衝撃を与えるだけじゃないですよ。ぼくは個人的にこう思っています。ぼくたちが今目にしてるのは、人類という”種の進化”です。>


テクノロジーをこんな風に語るところに、ですね。
まあだからって「格差」を放置していいのかってのはあるし、テクノロジーの活用にも「倫理性」は必要だと思うんですが(Uberはまさにそれで苦境に立ってます)、一方でこういうポイジティブ感は「いいな」と感じました。
まあ、「経済学」にそんなもんはいらん。
…と言われりゃ、その通りではありますがねw。


若干バイアスがかかってる番組・書籍ではありますが、「今」の世界経済のあり方、方向性を整理して考える上においては役に立つんじゃないでしょうか。
ここら辺は「さすがNHK」。