鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

正統派「女流」ファンタジー:読書録「夜の写本師」

・夜の写本師
著者:乾石智子
出版:創元推理文庫

夜の写本師

夜の写本師


「論理」に支えられた「魔術」。そして作品世界を貫く「女性性」。
ル・グイン、そして上橋菜穂子に通じる「女流」ファンタジーの系譜の作品ですね。「写本師」の魔術には唸らされました。


個人的には主人公が囚われる「闇」、それを許容する人生観に魅力を感じました。まあ一言で言えば「復讐」なんですがw、それを「否定」するのではなく、それを徹底的に追求する。薄っぺらい「正義感」や「道徳」を持ち出すんじゃなくて、それを受け入れ、その道を行くというのは、新鮮な印象があります。


やがてその「闇」は、千年の「怨念」に繋がり、個人としての「復讐」は歴史を貫く「復讐」に重なり、やがてそれが「個人」の「闇」へと収斂していく。
見事な展開です。
この流れに「女性性」が重なるあたり、男性である僕としては「う〜ん…」ってとこもなきにしもあらずでもあるんですが、それでも主人公が結局は「個」としての「復讐」を全うしようとするあたりには、ゾワッとしましたね。


それだけにラストは「これでええんかいな?」とも。
いや、この環の閉じ方は、見事と言えば見事。
でも描かれてきた「闇」の重さに、このラストは釣り合うのか、と。
まあ、そういう戸惑いを覚えさせるほど、作品の世界観が出来上がっているということでもあります。


さて、シリーズなんですよね、コレ。
続きをどうしましょう?