鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

人も組織もフィードバックが成長させる:読書録「ピクサー流 創造する力」

ピクサー流 創造する力  小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法
著者:エド・キャットルム、エイミー・ワラス 訳:石原薫
出版:ダイヤモンド社Kindle版)

ピクサー流 創造するちから――小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

ピクサー流 創造するちから――小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法


スティーブ・ジョブズ」を読んで、「アップル復帰後のジョブズの経営者としての成功は、ピクサーでの経験があってこそ」との主張に興味を覚え、(作中でも紹介されていた)本書を購入。
もちろん狙いは「ジョブズ絡みの話」だったんですが、それ以上に「ビジネス書」として参考になるやら、刺激になるやら…。
フォーブス誌が「これまで書かれた中で最高のビジネス書かもしれない」と評したそうですが、それも「分からんでもない」って感じです。


個人には「フィードバックの重要性」のところに一番考えさせられましたし、興味を覚えました。本書の内容はもっと幅広いんですが、今の自分にとっての興味、という点からです。


人や組織が成長し、創造性を高めていくには、フィードバックが重要。
そのフィードバックは、「上司からされる」のではなく、
組織の中の「誰からでも」相互にし合え、素直にそれが受け入れられる。
作者(エド・キャットルム)はピクサーの中でそういう「フィードバック」がされるように、試行錯誤をしながら、色々な取り組みをしていきます。
その基本にあるのは「全ては人」という考え方。
従ってピクサーが素晴らしい作品を作り続けていくためには、創造性を高め続けねばならず、そのためには「人」が成長し続けなければならない。
その原動力が「フィードバック」という訳です。


でも「フィードバック」って難しいんですよね。
人って「批評」を「批判」と受け取りがちだし、それを「人格否定」に繋げがちです。(フィードバックする側も、される側も)
批判しているのは「人」ではなく、「コト」なのだ、と。
このことを心から納得し、フィードバックを「素直に」受け入れるようになるための、環境づくり。
早い話が人間関係の構築。
これがまた難しい。
その「難しいコト」に取り組み続けているのが「ピクサー」な訳です。(創業者である作者はそのことに極めて「意識的」でもあります。これがまた凄いんだけど)


色々なフィードバックの場作り(ブレイントラスト会議、デイリーズ、反省会、ノーツ・デー)が紹介されてますが、その「仕掛け」じゃなくて、そのベースにある人間関係のあり方への目配りが一番素晴らしく、そして難しい。
だから本書で最も感動的であり、心を動かされるのは、軌道に乗った会社の改革を社員で論じ合う「ノーツ・デー」の冒頭で、ジョン・ラセターが「フィードバックへの恐れ」を告白するシーンです。
最も尊敬されているラセターでさえもが「批判」にさらされる、その「フィードバック」を受けることへの恐れと、それを引き受けるラセターの姿。
「上に立つものへの遠慮ないフィードバックができる組織を作れるか」
そして、
「その遠慮ないフィードバックを受け止める覚悟があるか」
…いやぁ、怖い。これは本当に怖い。(僕は自信ない)
でもだからこそ「ピクサー」は「ピクサー」足り得たのでしょう。


ジョブスが「ピクサー」に関与していたのは、「ピクサー」自身がそういう組織になろうと試行錯誤をしながら、もがいていた時期であり、そこに関与する中からジョブズもまた「成長」していったのだ、と。
多分そうなんでしょうね。
そう感じさせるものが本書にはあります。


ジョブズピクサーの関係に関しても多くのエピソードが紹介されており、ラストのジョブズとラセターの別れのエピソードは、ホント感動的です。
でもそれ以上に、組織としての「ピクサー」が目指しているもの、そのために作者やラセターが腐心してきたことが実に素晴らしい。
ジョブズ本」として本書を手に取りましたが、それを忘れさせる内容が本書にはありました。


おんなじことをやれって言われても、簡単にはできませんけどねぇ。(優秀な人材が集まってるとか、エンタメ業界とサービス業の差とかを考慮したとしても)