鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

羽生は特別なんやな、ヤッパ:読書録「不屈の棋士」

・不屈の棋士
著者:大川慎太郎
出版:講談社現代新書(Kindle版)

不屈の棋士 (講談社現代新書)

不屈の棋士 (講談社現代新書)


僕自身は将棋は「ルールはわかるけど、プレイはしない」ってとこです。実際、ほとんど対局したことはないような気がするなぁ。ちょっとゲームでやったくらい。
でも「棋士」という存在には興味があって、「月下の棋士」も「聖の青春」「王将」も大好きです。大山・升田の因縁話なんかも興味津々。
「囲碁」の方は小学生時代に少し習ってたこともあるんで、「少々齧ってる」とは言えるんですがね。


そういう立場の人間からすると、最近の「将棋」「囲碁」をめぐってのコンピュータとの「対決」にはすごく興味があります。
「チェス」が「やられた」のは知ってましたが、「将棋」「囲碁」は当分先だろうと思ってたのに、ここへきて、一気に…。
個人的には「人」対「人」の闘いに興味があるので、別にコンピューターソフトに負けてもどうこうはないんですが、棋士本人がどう考えてるのかは気になるところ。
…というのが本書を読んだ動機です。


読了しての一番の感想は、
「羽生善治は特別なんやなぁ」ってこと。
本書のインタビューパート(11人登場します)の一番手はその「羽生善治」。
実にバランスのとれた「大人」の応対で、新しい知識を貪欲に吸収していることを窺わせながらも、決してとんがった印象にはならない「知性」を感じさせる内容になっています。
それだけで、「大したもんやねぇ」と思うんですが、後から出てくる人たちの発言が、その「スゴさ」を際立たせます。


スタンスには差はあるものの、多くの棋士は、
「ソフトにはなかなか勝てない」
と思っています。
でもその誰もが、「羽生なら…」とも思ってるんですよねw。
どうもそれはソフト開発者の側もそうらしく、データ的にも羽生善治の隔絶した「強さ」は明らかにされているという…。
「そうなんや!」
って感じです。
だからこそ、今度の「叡王戦」に羽生がエントリーしたことには意義があるんですね(優勝したらコンピューターソフトと対戦することになります)。
いわゆる「頂上対決」。
しかしちょっと恐ろしくもあるというか・・・。


本書の中では結構あけすけに「プロ棋士」の護送船団方式的なビジネスモデルの形も語られていて、ドラマなんかで描かれるロマンのある「棋士像」とは違った側面も見れます(そのビジネスモデルが危機に瀕しているからでもあるんでしょうが)。
それも含め、今の棋士の世界が垣間見れて、望外の面白さのある一冊でした。


たとえロボットに総合格闘技家が負けても気にしないように、僕は別にソフトに棋士が負けても、それは棋士同士の戦いとは別と思っています。
だけどそこには「知力」という測り難いものが(コンピューターによって)「可視化」され、その神秘性や魔術性が失われるという側面もあるんですよね。(だからこそ「評価点」に批判的な意見はよくわかります)
その時、今棋士の世界に感じているような「ロマン」を引き続き持つことができるのか?
「勝ち負け」とは違う世界観の未来という意味では考えさせられますね。