鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

「グレイ」な未来の「変数」を整理してくれる:読書録「シフト」

・シフト  2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来
著者:マシュー・バロウズ 訳:藤原朝子
出版:ダイヤモンド社(Kindle版)

シフト――2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来

シフト――2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来


元CIA局員で、NIS(国家情報会議)の分析・報告部長であった作者による「未来予想図」。NIC時代に政権に提出した「グローバル・トレンド」をベースにして書かれた作品のようです。
年末年始、リアル本では「ギリシア人の物語㈵」を読んでましたが、電子書籍ではこちらを読んでました。「過去」と「未来」…と言う訳ですね。別に狙ってたわけではありませんがw。


本書の論点については「あとがき」で以下のように訳者が整理してくれています。


<個人のエンパワメント、世界の多極化、中国の台頭、アフリカの人口爆発と食料問題、プライバシーと民主主義、宗教的アイデンティティーと都市化の問題…と、バロウズは世界情勢を文字通り多面的かつ多層的に論じる。>


もっと大枠で言うと、「テクノロジーの進展に伴う個人のエンパワメント」と「世界の多極化」が複層的に絡み合う中で、世界の「未来図」は「グレイ」となっており、「楽観的」にも「悲観的」にもなりうる…というのがバロウズのスタンスでしょうか。
何か、分かったような、分かってないような…って話ですがw。


「ギリシア人の物語」を読んで分かるのは「人間性ってのは大昔からあんまり変わってないな」ってこと。つまり「苦境を打破したり、未来に向けた大改革を成し遂げる『立派な人間』もいれば、妬心やくだらない名誉心・欲望に振り回され、希望をつぶしてしまう『どうしようもない人間』もいる」。
その視点から本書を読むと、「テクノロジーの進歩」によって一つのACTIONの影響が極めて「大きく」かつ「早く」「広範囲に」出てくるようになった中、「人間」はどこまで事態をコントロールしうるのかが気になります。
「立派な人間」もいれば、「くだらない人間」もいる。でも「くだらない人間」が下した判断が、世界を不可逆的な崩壊局面に導くことはないのか…。
かつては「核」について語られていたことが、「バイオ」や「IT技術」、さらには「人工知能」と、ドンドン増えていることが本書を読むと改めて確認できます。(そこに「希望」があることも、また確かなんですが)
「多極化」は貧困層が減少していることの結果でもあるのですが、「不確定要素」を増やす要因でもあります。だからこそ、作者は「アメリカ」のスタンスの取り方に懸念を感じているんでしょうが(多分、オバマ政権には批判的だったんでしょうね)、それを「考えすぎ」とは言い切れないところはあると思います。
だからってアメリカが「世界の警官」に立ち戻ることは、現実問題としてナカナカ難しいでしょうがね。


「日本」に関する記述はあまり多くありませんが、鋭いところを突いていると思います。
「中国」をどのように位置づけるのか。
地政学的にはまずココ。
「少子高齢化」を前提として、どのような社会的変革を実施するのか。
国内問題としてはこの点。
いやはやおっしゃる通りです。そして「感情論」ではなく、事実の分析に基づき、社会的に許容できる方向性を考える…というのが本書のスタンスにも通じるところです。こういうことをチャンと日本政府や官僚はやってんのかなぁ。


まあ「ビックリ」するようなことは書いてませんし、目が覚めるような「解決方法」が提示されているのではありません。
「不透明でグレイな未来予想図を念頭に、考えうる選択肢を出来る限り考え、その中でできることをやっていく」
結局はこれしかないってことでしょう。
最終章に「2035年」を舞台にしたフィクションが幾つか収められているのですが、その「リアル感」ぶりが本書の現実把握の確からしさを反映していると思います。
スッキリしないんですがね。これがまたw。