鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

これはナカナカの本じゃないかな:読書録「チャレンジャー・セールス・モデル」

・チャレンジャー・セールス・モデル 成約に直結させる「指導」「適応」「支配」
著者:マシュー・ディクソン&ブレント・アダムソン  訳:三木俊哉
出版:海と月社

チャレンジャー・セールス・モデル 成約に直結させる「指導」「適応」「支配」

チャレンジャー・セールス・モデル 成約に直結させる「指導」「適応」「支配」

  • 作者: マシュー・ディクソン,Matthew Dixon,ブレント・アダムソン,Brent Adamson,(序文)ニール・ラッカム,Neil Rackham,三木俊哉
  • 出版社/メーカー: 海と月社
  • 発売日: 2015/10/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「セールス」ってのを科学的に分析すると、どういう風に整理出来るのかな?
・・・と言うことを漠然と考えてて、その時に店頭で偶々見つけた作品。
以前読んだ「大型商談を成約に導く『SPIN』営業術」に繋がる作品のようですが、「SPIN営業術」が「大型商談」だけに(基本的なスタンスや流れ、アプローチは提示されていたものの)局面においては「個別性」が高くならざるを得なかったのに対し(それでも卓見に満ちた作品だったと思ってますが)、本書の方がやや具体的なプロセスにおいて標準化されている印象があります。(とはいっても「スキル」本ではありませんがね、やっぱり)


まず多くの事例を分析した結果、作者たちはセールスマンを以下のように分類します。


・ハードワーカー:勤勉タイプ
・チャレンジャー:論客タイプ
・リレーションシップ・ビルダー:関係構築タイプ
・ローンウルフ:一匹狼タイプ
・リアクティブ・プロブレムソルバー:受動的な問題解決タイプ


「商品売り」のような単純なセールスですと、どのタイプも平均的なパフォーマンスは同じように出てきます。
しかし極めて成功率の高い「ハイパフォーマー」が出るのは(題名から推察できるように)「チャレンジャー」のみ。
割と多くの人が「リレーションシップ・ビルダー」こそが「セールス」の王道と思っているのですが、実はそこでもハイパフォーマー率は高くない・・・ってのが最初の本書の「気づき」となります。
しかもこの比率は景気悪化や複雑なセールス(ソリューションセールスなんかが典型)になればなるほど顕著になる。
じゃあ、「チャレンジャー」の特徴って・・・って、次に移ります。
(ハイパフォーマーは「ローンウルフ」にも多いんですが、「一匹狼」タイプってのはそれぞれ独自のやり方をしてますからね。要素を抽出して「標準化」するのには向きません)


「チャレンジャー」の特徴。
本書ではそれを副題の3つに整理しています。


「指導する」能力:<顧客のビジネスについて独自の視点を持ち、双方向の対話能力に長けている「チャレンジャー」は、営業上のやりとりのなかで差別化ポイントを指導する(教え導く)ことができる。>
「適応する」能力:<顧客のバリュードライバーや経済ドライバーを把握している「チャレンジャー」は、顧客組織のなかの正しい人に正しいメッセージを伝え、共感を得られるように適応することができる。>
「支配する」能力:<「チャレンジャー」はお金の話もいとわず、必要とあらば顧客に多少の無理強いができる。したがって、営業プロセスを支配する(主導権を握る)ことができる。>


「ソリューション営業」を謳う場合、よく「顧客ニーズ」と言います。
このこと自体は間違いじゃないと思うんですが、その「ニーズ」が「顧客もよく承知しているもの」だと、いくらそこに訴えても、主導権は顧客サイドから移りません。
「チャレンジャー」が指摘するのは、「顧客が認知していないニーズ」「顕在化していない潜在ニーズ」。顧客のビジネスやバリュードライバー・経済ドライバーを研究し、熟知し、自身のビジネス視点からこうした「ニーズ」を見出し、指摘することで、顧客に評価される「知見」(インサイト)を提供する。
「チャレンジャー」は「ニーズ」をこのように扱います。「リレーションシップ・ビルダー」との差はココ、というか、この点で「リレーションシップビルダー」と「チャレンジャー」を区分してると言ってもいいですかね。「顧客を知る」と言う点では両者は共通していますから。


「適応」と「支配」はビジネスを進め、クロージングするために発揮される能力。
「適応」は、現在のビジネス環境を踏まえ、決定権者だけでなく、決定に影響を受け、与えるメンバーを巻き込み、組織内での軋轢を回避する能力と言ってもいいかと。
「支配」は、まさに「決定」を促す力。インサイトを提供し、社内の賛同を得るプロセスを踏んでいるのであれば、自ずとこの「力」は発揮しやすくなるのでは、と。(逆に言えばその二つがなければ、それは「無理強い」になっちゃいます)


これらを踏まえて、本書ではセールスプロセスも提示されています。
ステップ1「地ならし」:<顧客の心を読み、共感を示すことで信頼を築く>
ステップ2「再構成」:<認識されていない問題、ニーズ、仮説をまず再構成する>
ステップ3「裏付け」:<問題の大きさに気づかせ、顧客の当事者意識を徐々に高める>
ステップ4「心をゆさぶる」:<問題の心理的特徴を強調し、人間らしさを付与し、個人のワークフローに影響を及ぼす>
ステップ5「新しい方法の提示」:<サプライヤーの提供価値にそれとなく結びついた、問題解決の新しい枠組みを提示する>
ステップ6「ソリューションの提案」:<主な指導ポイントにかかわる売り手のサービス一覧を示し、実行への手順を強調する>
このステップで自社商品や提案がなされるのは「ステップ6」、最後です。
それぞれのステップについて紹介してたら長くなるんで割愛しますが(ちなみに「インサイト」の提示は「再構成」。その説明が「裏付け」です)、これは非常にクレバーなステップだと思います。「SPIN」にもつながりますが、ソリューション営業の骨子はこれだと思いますよ。


こうした「セールス」を実践する営業マンを育てるにはどうしたらいいか。
本書では「コーチング」と「営業イノベーション」が提示されてます。
ここら辺の話はなんだか「ネッツトヨタ南国」の「教えない人材育成」にもつながるようで面白いですが、うーん、完全に理解しきれたかどうかは・・・。(ま、「教えれる」ようなものは「知見」とは言えませんわな)
ということで、この点はここら辺で(笑)。


何にせよ、「気づき」の多い本だったのは確かです。
「じゃあ、どうやるんだ」
と実践を考えると、これは結構難しいことも確かですがね。(そんな簡単に「インサイト」なんて見つかるもんじゃないですから)