鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「世界史の極意」「安倍官邸の正体」

・「世界史の極意」
著者:佐藤優
出版:NHK出版新書(Kindle版)

世界史の極意 (NHK出版新書)

世界史の極意 (NHK出版新書)



・「安倍官邸の正体」
著者:田崎史郎
出版:講談社現代新書(Kindle版)

安倍官邸の正体 (講談社現代新書)

安倍官邸の正体 (講談社現代新書)



「世界史の極意」は情報通にして情報分析能力に長けた佐藤優氏が、現在の世界情勢をふまえて、「アナロジー」から「現代」を見るための視点について論じた作品。
「新・帝国主義」「民族問題」「宗教紛争」という視点から、過去の世界史を分析しつつ、そこから「現代」を語っています。いや、実に考えさせられる内容で、同時に今の世界情勢を見る視点を確かに与えてくれる内容になってると思います。
(勿論、それをどう自分の中で消化するかっってのはありますけどね)
僕自身、どうしても「世界史」は弱いところがあるので苦手意識が克服できないんですが、「通史」じゃなくて、こういう風に「意図」を持って「世界史」に踏み込むて言うのは入りやすくて助かりました。
「山川世界史」、買おうかしらんw。


佐藤氏の問題意識としては、
「ウクライナ問題で表面化した、ロシア等の『新・帝国主義』の流れ」
「ISILで一気に世界に広がったイスラム教を巡る諸問題」
「上記両者のベースにあるアメリカの退潮」
があります。
同時に、
「安倍政権による日本が『戦争』に巻き込まれる危険性の高まり」
があって、そのトーンが本書の根幹にはあります。
佐藤氏の「公明党」に対する評価なんかも、ここら辺に通じてるんでしょうね。(そういう意味で佐藤氏は『現実主義者』です)


「安倍政権」に対する評価については完全に同意は出来ませんが(そこまで愚かではないと思っています)、そういう「気配」を感じるところは僕もありますかね。
それこそ「日本史」からアナロジカルに現代を見ると、戦前のある時期と重なって感じられるってのは確かにありますから。
何にせよ、今の世界情勢そして日本のスタンスを考える上に置いて、この作品は非常に深い示唆を与えてくれると思います。(それにしても中東情勢は難しい・・・)


「安倍政権への評価」という流れで読んだのが、次の「安倍官邸の正体」。
何か題名だけをみると「暴露本」っぽいですが、読んでみるとかなりしっかりした分析がなされた作品でした。
特に政権運営として、毎日10分ほど行われている「正副長官会議」が極めて重要な意味を持っていること(情報の共有や、方向性の確認等)等、第一次政権の「失敗」(更には「民主党政権」の迷走)を踏まえた仕組みや運営を行っている辺り、なかなか興味深いものがあります。
「要」となる菅官房長官の履歴なんかも、あまり知らないことだったので、参考になりました。
「お坊ちゃん」だった安倍サンが、第一次政権の「失敗」とそのどん底からの「再起」を経験することで「苦労」をしり、そのことで「苦労人」菅官房長官の重用ができるようになった・・・ってのは深読みし過ぎかなw。


政権運営としての現政権の安定感は(メディア対策も含め)確かに納得できるところ。
その一方で僕自身が安倍政権に対する懸念を払拭しきれないのは、やっぱりその「復古主義」的な「性格」でしょうか。
作者が言う通り、安倍氏自身は「現実的保守主義者」なのかもしれません。確かにその振る舞いや軌道修正の仕方を見ると、この指摘には納得できるところもあります。
しかしながら「靖国参拝」に見られたように、彼のサポーターとして右派強硬派が強い存在感を示しており、その影響力を安倍氏自身が排除しきれないところにはやはり懸念を感じざるを得ません。
先日も三原じゅん子議員が「八紘一宇」に関する発言をして驚きましたが、その字句の意味や語源はともかく、「歴史的意味」がこの言葉にあるのは間違いなく、そのことを無視するような発言は「歴史修正主義的」ととられる可能性を否定できません。
「それはとる方が悪い」
と言ってるようじゃ、「政治家」とは言えませんな。少なくとも「世界情勢」を踏まえた振る舞いとはとても思えない。
加えて安倍氏自身の「敵」に対する不寛容な振る舞いを見ていると、「不測の事態」を惹起しかねない危険性すら見えてきます。
ここら辺を考えると、佐藤優氏が安倍政権に対して強い懸念を持つのも、分からなくもないですね。


まあポイントは「菅官房長官」かなぁ。
彼が「要」にいる限りにおいては、おかしな方向には進まないような期待は持てます。
プラス「公明党」との連立。
その是非は色々問われますが、ある種のバランサーとして働いていることは確かだと思います。


何にせよ、「長期政権」としての安倍政権はほぼ確定している状況。
なんとか日本を良い方向に進めて欲しいものです。