鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「特捜部Q カルテ番号64」

・特捜部Q カルテ番号64
著者:ユッシ・エーズラ・オールスン 訳:吉田薫
出版:早川書房(Kindle版)

特捜部Q ―カルテ番号64― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

特捜部Q ―カルテ番号64― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)


デンマークを舞台とした「特捜部Q」シリーズ第4作。
電子書籍化のペースもアップして、次作と同時期での電子書籍化です。
早川書房、Good Job!


実在の施設、それを巡るデンマークのちょっと驚くような社会施策をベースにして、ショッキングな事件を物語りつつ、レギュラーメンバーの相変わらずのドタバタぶりでテンポよく読ませてくれます。
メンバー間の関係も少しずつ深まり、ソレゾレが抱える「謎」も、もどかしいペースなんだけど、徐々に明らかになってきています。
いやぁ、上手い。


「優生学」に根拠づけられたような社会施策が、ナチ崩壊後も行われていた(60年代の後半まで!)という「事実」。
それと最近の欧州における「極右政党」「排外的な思想」の伸張を重ね合わせたところが本書の基本的な構図ですが、何やら日本の現状をも想起させるところがあって、考えさせられもします。
キーとなる人物の、思想/行動のおぞましさと、妻に対する愛情深い振る舞いの対峙なんかには、相変わらずの人物造形の深さを感じます。


作中では罪を負うべき人々は、それが社会的正義に則ったものかどうかは別として、断罪されます。
しかし彼らを支え、その思想を許容する風潮は・・・。
もし減点をするとしたら、この「カタルシス」そのものかもしれません。
(爽快感のあるラストではないんですけどね)


ニーデは本当は引き返すことができた。
彼女を受け入れてくれる人はいたのだ。
そんなラストの余韻が僕は結構好きです。


次作は年末年始のお楽しみかなぁ。