鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る」

・イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る 雇用400万人、GDP8パーセント成長への提言
著者:デービッド・アトキンソン
出版:講談社+α新書(Kindle版)



Facebook経由で幾つかの雑誌でのインタビュー記事を読んで、「面白そうだな」と購入した作品。こういう際の電子書籍の便利さ・スピード感は格別です。単に「商売」やられちゃってるだけかもしれませんがw。


作者はバブル前に日本でアナリストをやってて、邦銀の不良債権に警鐘を鳴らしてたことで有名なようです。当時は邦銀は彼を嫌ってたようですが、結果的には彼の分析・判断が正しかったことが証明された…と言うオチ。
なんとも恥ずかしい。
その後、国宝・重要文化財の補修を手がける老舗企業の経営者となり、その経験なんかも踏まえて書かれたのが本書です。


内容としては大きく分けて二つですかね。

「数値的分析に基づく政策運営や経営を行うことで日本経済はまだ成長することができる」
「文化的資本を活用することで、経済波及効果の大きい観光立国が十分可能」

ま、「観光」のあたりはご自身の会社にも関わる部分ですので、完全に「中立的」とは言えないと思いますがw(補修費の予算の話とか)、でも言ってることは至極真っ当だと思いますよ。
数値分析に基づく経営判断や政策遂行の話なんて、耳の痛い話でもあります。不良債権をめぐる当時の金融機関トップの言動なんか、今から振り返ったら「なんちゅうアホな…」ですが、当時のことを考えたら「そーだったろうな」と納得感ありあり。根本のところではそれは今も…って感じもあります。


「日本の良き文化」として取り上げられる「おもてなし」への苦言も、実にその通りと思います。
確かに質の高いサービスは提供されている。
でもそれは供給者目線での提供であり、個々の客の嗜好や立場に立ったものではない。
いやはや、おっしゃる通りです。
国内で絶賛された五輪の際のプレゼンがちょっと恥ずかしくなっちゃいましたw。


でも一方で、
「これって格差前提だよなぁ」
って気分にもなりました。
「自分の都合や嗜好に沿ったサービスを求めるお客」
こうした層が、観光にも「お金」を使う人々であり、これらの層を呼び込み、リピーターを増やすことで、「観光」が「産業」として大きくなることができる。
おっしゃる通りなんですが、その層っていうのは言ってみれば世界の「富裕層」もしくは「中間層の上位層」。
そういった層が増えてきており、グローバリズムと並行して世界各地を「観光」していることは理解していますが、同時にそれはグルーバルレベルでの「格差」を前提とした動きでしょう。
一歩引いてみると、ここにどこまでの持続性があるのか、ちょっと考えさせられるところもあります。
本書の枠組みの中で論じるような話じゃないっちゃあないんですがね。


ちょっと題名が偏ってる印象はありますがw、単純な「日本バンザイ論」でも「日本否定論」でもなく、ロジカルな思考から語られる「提言」として、一読の価値があると思います。
面白かったですよ。